巻ノ七十六 治部の動きその五
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「だからな」
「やはりそうか」
「それに内府殿なら天下人に足りるしじゃ」
大谷は長束にはっきりと言った。
「お拾様も無下には扱わぬ」
「茶々様さえ静かならか」
「茶々様は御主達で抑えられよう」
「その治部もおるしな」
長束もそこは、と答えた。
「それは何とかなる」
「ではな」
「お拾様もご無事で天下も泰平なままか」
「これならよいであろう」
「わしはあくまで豊臣家の天下を願うが」
「しかし若しもじゃ」
大谷はこの事実をあえて言った。
「お拾様がおられなくなればどうなる」
「その時はか」
「うむ、どうなる」
問うのはこのことだった。
「その場合は」
「今豊臣家はあの方だけじゃ」
元々一族の少ない家であったが最早そうした状況になっている、豊臣家は今ではいるのは秀頼一人なのだ。
「ではな」
「そうであろう、そうした状況だからな」
「お拾様の安泰か」
「それに務めてな」
「天下はか」
「もう家康殿にお譲りすべきではないか」
大谷は長束にこのことを話した、こうしたことは己を決して曲げぬ石田より話をしやすいと思って話したのだ。
「どうじゃ」
「なら御主はそうせよ」
長束は大谷を否定しなかった、肯定もしなかったがこう述べた。
「ならばな」
「そう言うか」
「うむ、御主にも家があるしじゃ」
ここでだ、長束は大谷の顔を見た。頭巾に覆われたその顔を。
「見えておるか」
「何とかな」
「今はか」
「そうじゃ」
「しかしもう長くはないな」
長束は達観している顔で大谷に言った。
「なら余生充分に過ごせ」
「そう言ってくれるか」
「その病では最早動くのも辛かろう」
そこまで病が進んでいるだろうというのだ。
「だからな」
「後は、か」
「領地に帰ってじゃ」
「静かに過ごせというのか」
「そうせよ」
大谷に穏やかな声で告げた。
「御主はな」
「では後はか」
「わし等がやる」
あえてだ、長束は大谷に穏やかな声で話した。
「そうせよ」
「しかし」
「出来ぬか」
「おそらくな」
頭巾の中の目を苦笑いにさせて述べた。
「何かあればな」
「動くか」
「そうする」
こう長束に話した。
「またな」
「そうか」
「少なくとも佐吉はな」
石田、彼はというのだ。
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