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真田十勇士
巻ノ七十六 治部の動きその四

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「あの者達にな」
「馬鹿な、わしはじゃ」
「間違ったことはじゃな」
「言っておらぬ」
 それこそ一言もというのだ。
「疚しいことはない」
「その隠さぬところがじゃ」
「いかんというのか」
「そうじゃ、相手のことも考えよ」
「言うべきことを言っただけじゃ」
「何度も言っておるが」
 大谷は呆れつつも言った。
「御主のその気質は墓穴になるぞ」
「正しいことを言うことがか」
「そうじゃ、時と場所を考えて言わぬとな」
「わからぬことじゃ」
 石田にはどうしてもだった、その気質故に。
「何故そうなる」
「全く、しかしくれぐれもな」
「その時はか」
「ある程度以上五大老の方々にお任せせよ」
 家康の詰問の時はというのだ。
「わかったな、肝心どころじゃ」
「御主の言うことがわからぬが」
「わからぬとそうは出来ぬな」
「そうじゃが」
「では病と称して出るでない」
 こうまで言う大谷だった、とかく彼は石田の平壊者ぶりを気にしていた、丁度彼は大坂城で七将達の話を聞いていた。
「治部め、見ておれ」
「全くじゃ、太閤様にあれこれ吹き込んでくれたわ」
 加藤と福島がまず言っていた。
「わしが唐入りに出ておる時にな」
「うむ、言っておったぞ」
「あ奴、太閤様のお傍におるのをいいことに」
「どれだけ言ってくれたか」
 加藤嘉明に蜂須賀も言う。
「讒言はいつもじゃったな」
「告げ口ばかりしてくれたわ」
「唐入りの時どれだけ嫌がらせされたか」
「全くじゃ、忘れぬからな」
「見ておるがいい」
 黒田と細川、池田も同じ考えだった。
「こちらにも考えがあるぞ」
「お拾様にも吹き込むならな」
「命はないと思え」
 こう言っているのを聞いた、それで大谷はその足で長束正家のところに行ってそのうえで彼に七将のことを話した。
 そのうえでだ、彼に言った。
「わしの思った通りだ」
「治部め、いらぬ敵を作っておるな」
「あ奴の短所が出過ぎておる」
「ずけずけとありのままを言い過ぎる」
 それ故にとだ、長束も言うのだった。
「それが為にじゃ」
「こうしたことになっておるな」
「困ったな」
「あの者達は佐吉を嫌っておるだけじゃが」
「それを付け込まれるな」
「内府殿にな」
「ここで内府殿を抑えねば」
 大谷は言った。
「天下は決まるぞ」
「内府殿にか」
「そうなる」
「わしもそれは認められぬ」 
 はっきりだ、長束は大谷に言った。
「御主は違う考えの様じゃが」
「わかるか、そのことが」
「御主は天下泰平ならいいというのであろう」
「もう戦はいらぬ」
 大谷は長束にはっきりと述べた。
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