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真田十勇士
巻ノ七十六 治部の動きその三

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「忍の者も多い」
「だからじゃ」
「刺客を放とうとも」
「首尾よくいくとはな」
「思えぬからですか」
「だからじゃ」 
 それ故にというのだ。
「わしはな」
「それは、ですか」
「首を縦に振ることは出来ぬ」
「そうですか」
「他のやり方しかないか」
「今のところ前田殿もご健在じゃ」
 秀家は石田だけでなく島にも言った。
「だから話で封じたい、そしてな」
「その時にですか」
「御主も五奉行の一人じゃ」
 その立場だからだというのだ。
「共に出てな」
「内府殿をですな」
「問い詰めて今度無体はせぬと誓文でも書かせればな」
「よいですか」
「我等がまとまって抑えれば何とかなる」
 例え相手が家康でもというのだ。
「だからよいな」
「話で、ですな」
「内府殿を抑える、そしてそれでも駄目ならな」
「その時は」
「既に前田殿は決めておられる」
 秀家はここでも彼の名を出した、やはり家康に対することが出来るのは彼しかいないからだ。少なくとも一人ではだ。
「だからな」
「ここはまとまって」
「うむ、ことを進めようぞ」
「わかり申した」
 こう話す、そして石田は大谷にもこのことを話したが。
 大谷はここでだ、石田を頭巾の中の目で見つつ忠告した。
「佐吉、よいか」
「どうしたのじゃ」
「御主、抑えていけ」
「抑えよというと何をじゃ」
「御主自身をじゃ」
 他ならぬというのだ。
「抑えておくのじゃ」
「それはどういうことじゃ」
「間違っても空気を読まずずけずけと言うな」
 大谷が言うのはこのことだった。
「いつもの様にな」
「その場でもか」
「御主の悪い癖じゃ」
 昔から石田を知っている、それが為の言葉だ。
「場を弁えず正しいと思ったことを言うのはな」
「それを慎んでか」
「うむ」
「内府殿と対せよと」
「くれぐれもな」
「正しいことを言わずして何の意味があるのじゃ」
「だから聞け、場を読むのじゃ」
 大谷はまた石田に忠告した。
「そうして何時御主が言う時か考えて言うのじゃ」
「わからぬことを言うのう」
「わからずともそうせよ、それでじゃが」
「今度は何じゃ」
「御主、唐入りから帰った者達を迎えたな」 
 この話もするのだった。
「そうじゃな」
「それがどうかしたか」
「その時何を言った」
「何をとは普通にじゃ」
「言ったというのか」
「そうじゃ」 
 こう平然と返すのだった。
「それがどうかしたのか」
「随分恨まれておるぞ」
 このことを話すのだった。
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