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ヨーソローを抱きしめて 【凛キチ】
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るたびに、現実を突きつけられている錯覚に陥っていたという。
もう飛び込みができない悲しさ。
走ることもままならない悔しさ。
アイデンティティを失った不安。
それら全てが頭の中で渦巻いて、怖くてたまらないと言った。その時の彼の表情は、今まで見たこともないほど青ざめていた。
……助けてあげたい。
いや、そんな生易しいものじゃない。
君を助ける。
そして君の笑顔を取り戻す。
私はそのためだけに生きたい。
心からそう思った。
「大丈夫だよ」
彼の身体を抱きしめ、耳元で囁きかける。
「私がずっとそばにいるから……だから…君の悲しみを私にぶつけてほしい。全部受け止めるから……君の全てを受け入れるから……」
私はずっと、君の笑顔に救われてきた。
だから今度は、私が君を助ける番だ。
今だけは…泣いていいよ?
私はずっとここにいる。
離れたりしないから。
彼の大きな手が私の両肩を掴む。私はあっさりと押し倒されてしまった。そして、そのまま????
? ? ? ? ?
次の日から、私は熱を出してしまった。40度近い高熱。あまりの辛さに、一週間家から一歩も出られなかった。
まさか、そんな事が起きているなんて考えもしなかった。
あのままずっと家から出なければよかったと、そう思えるほどの悲劇がおそいかかるなんて知る由もなかったんだ。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「一週間ぶり、おはヨーソロー!……あれ?」
いつものように彼の病室に向かう。でもそこには誰もいなかった。ベットも綺麗に片付いている。花瓶も、音楽プレーヤーも、引き出しに隠してある例の本もない。彼の持ち物も全て消えてしまっていた。その真っ白な光景を目の前にして、私の頭に嫌な予感が走る。とても悲しいことが起きているという予感が…
それを振り払うために、私は看護師さんに話を聞くことにした。病室を移っただけかもしれない。いや、そうに決まってる!あ…もしかしたら予定より早く退院したのかも。そんなことを考えていると、向こうで看護師さんたちが話しているのを見つけた。二人共悲しそうな眼をしている。あんまり褒められたことじゃないけど、私は彼女らの会話を盗み聞きした。
「彼、よく頑張ったわよね」
「はい…とても強い子でした」
嫌な予感が倍増する。まさか、いやそんなはずはない。治ったんだ!そうに決まってる!私は自分にそう言い聞かせ、全速力で彼の家へ向かった。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
不思議と涙は出なかった。目の前にある光景が信じられなかったから。
ねぇ…起きてよ。
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