乙女の章
Z.Menuetto
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「スティーヴンス、解ってくれ。私は彼女以外と婚姻を結ぶつもりはないのだ。」
ここは首都リヒテにある王城である。リヒテの都は、後にプレトリウス王国の五番目の主要都市となり、貿易の街アッカスから王都プレトリスまでを繋ぐ要の街として栄えることになる。
さて、ここで話をしているのは王であるハンスと、彼の側近であるスティーヴンスである。
「しかし王よ、あなたが王位に就かれてから四年も経つのです。周囲の国々からも多くの申し入れがきておりますし、第一、彼の娘は教会の乙女ではありませんか!」
「それがどうしたと言うのだ!私は彼女とでなければ、絶対に婚姻は結ばん!」
この日スティーヴンスは、全く見合いを受けぬ王に進言していたのであった。だが、ハンスは悉くそれらを拒否し、トレーネの森で出会った娘ではないと婚姻せぬと通したのである。
しかし、これはかなり危険な駆け引きであり、このことが大聖堂の司教達にでも知れようものなら、破門されて王位を剥奪されかねないのである。
ハンスとてそれは知っている。だが、自らの心を偽り、画策された政略結婚をする気などは毛頭なく、自ら愛する者と一緒になることは王位に就いた時から決めていたのである。
それは、この王家に嫁いできた母のことが原因と言える。
ハンスの母アンネは、隣国カツィオル王家から嫁いできたが、このカツィオル王家が裏切り行為をしたために、アンネは見せしめに処刑されてしまったのである。
それはハンスが未だ四歳の頃の話であり、それ以降、その出来事はハンスに深い陰を落としていた。
そのためか、ハンスは王としてではなく、人間としての婚姻を皆に認めさせたかったのであった。
だが、トレーネの乙女との婚姻を通すとなると、かなりの艱難が待ち受けている。
それを認めさせるということは、即ち「教義を変える」ということを意味するからである。
この教義には国の行く末を見る“星宿”、乙女の選出をするための“星落”、そして乙女を神へと捧げる“星昇”(奉納)の三つの儀式があるため、単純に直せばよいと言える問題ではないのである。
古より伝承されしものを否定せず、尚且つ新しく創り変えることが絶対的な条件と言えようが、これこそ神の御業に頼らねばならぬ代物と言えよう。
この日の話も平行線で終わりをむかえ、結局は何一つ進展することはなかった。
暫くしてハンスは引き出しから一通の書簡を取り出し、それをスティーヴンスに渡して言った。
「すまないが、またこれを頼む。」
そう王にいわれたスティーヴンスは、溜め息混じりに王に返答した。
「王よ、彼の娘は未だ子供と言えます。何故にここまで無理を通すのですか?」
その言葉に王は多少ムッときたが、直ぐに気を取りなおして言ったのであった。
「スティーヴンス、私は彼女
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