乙女の章
Z.Menuetto
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暫くしてからスティーヴンスへと言った。
「スティーヴンス、これから君に伝えることは、他言無用に願えるかな?」
「はい、御信用頂いて結構です。」
ヴェルナー神父の重い口調に、スティーヴンスは身を正した。
「ラノンが…あの泉に入水する直前に、我らにこう告げたのだ。“私が最期となりましょう”とな。」
スティーヴンスには、その言葉の意味が解りかねた。
乙女が“星昇”または“奉納”と呼ばれる儀式で泉に入水して神にその身を捧げることは知っている。しかし、その乙女の最後の言葉が“私が最期となりましょう。”とは、普通であれば言わないであろう。
それも信仰のある者なら尚更である。
だが、乙女ラノンは、はっきりとそう言ったのだと言うのである。
「その言葉が果たして神から来たものなのか、それともラノン自身の願いなかは定かではない。私はな、王とシュカのことをもう暫く伏せて置くことにしようと思っている。ラノンのこの言葉が、一体何を意味しているのかを見極めるために。」
「ヴェルナー神父…。」
何ともつかぬ顔付きのヴェルナー神父を見て、もしかしたら…そうスティーヴンスは直感した。
神でも何でもいい。皆が幸福になれるのであれば、自身の命など惜しくはないと、スティーヴンスは常々思っていた。
もし仮に、王がシュカと結ばれるのならば、自身が身代わりになっても良いのである。
尤も、これは無理な話しではあるのだが、彼の覚悟は白き薔薇の証を受けた時から決まっていたのである。
「何にせよ、今日明日に解ることではない。王には今までの通りに伝えておくように…。」
「承知しています。それでは陽も傾きかけてきております故、私はこれにて失礼させて頂きます。」
そう言ってスティーヴンスが椅子から立ち上がると、横からマッテゾン神父が包みを彼に渡した。
「これは?」
「シュカの焼いたバターケーキです。日持ちしますから、王にいかがかと思いまして。」
思いも掛けない手土産に、スティーヴンスは恐縮しながら包みを受け取った。
「有難う御座います。王もさぞ喜ばれることでしょう。」
その後、二人の神父に見送られスティーヴンスが正門まで出た時に、不意にノービスで聞いた話を思い出してヴェルナー神父に尋ねてみた。
「私は聞いたことはないな…。もし教会の古文書になにかあれば、直ぐに君宛に届けさせよう。」
ヴェルナー神父は微笑みながらスティーヴンスに約束したのであった。
「では、気を付けて参られよ。神の祝福があるように。」
それからそのまま、スティーヴンスはこの聖グロリア教会を後にし、王城へと帰るべく帰路についたのであった。
リヒテの都へと戻ったスティーヴンスは先ず、王に会って教会からの土産を渡した。例のバターケーキである。
ハンスは喜んで包みを開くと、
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