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SNOW ROSE
乙女の章
Z.Menuetto
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うのか…。」
「ええ、幾度も進言を試みましたが…。王には早く婚姻を結んで頂かなくては困りますし、だからと言って無理強いをしても…。」
 スティーヴンスはヴェルナー神父の言葉に嘆息しつつ答えた。
 その答えにヴェルナー神父は暫し目を閉じ、そしてスティーヴンスに言った。
「分からんでもない。君は王の家臣であり親友であって、教会の者ではないのだからな。全く…君の様な者を板挟みにするとは…本当に困った王だ。」
 ヴェルナー神父が幾度目かの溜め息を洩らした時、マッテゾン神父が扉を開いてお茶を運んできた。
「お待たせ致しました。今日はシュカとドリスがタルトを焼いてましたから、良かったら召し上がって下さい。」
 マッテゾン神父はそう言って、スティーヴンスとヴェルナー神父の前にタルトと紅茶を置いた。
 タルトの香ばしい匂いと紅茶の芳醇な薫りが鼻を擽り、スティーヴンスは微笑んで皿に手をかけた。
「木苺のタルトですね。では、頂きましょう。」
 そう言って一口頬張ると、口の中に広がる甘酸っぱさと、下に敷かれたアーモンドソースの香ばしさが絶妙に絡まり、何とも言えない至福の味を感じた。
「お気に召したかな?」
 ヴェルナー神父が微笑みながら聞いてきた。
「ええ、こんな美味いタルトを食したのは初めてですよ!」
 そのスティーヴンスの言葉に、二人の神父は満足げに頷きあったのであった。
 この二人の神父だけでなく、シスター達や新しく着任したトマス神父も、シュカが焼くこのタルトを大変好んでいた。
 このタルトはシュカのオリジナルであり、実はラノンとの思い出を忘れぬ様にと創り出されたものであった。皆がそれを知ったのは、ラノンが旅立ってから一年程経たラノンの誕生日の日である。
 朝早くから食堂に火が入れられていたため、シスター・ミュライが見に行くと、そこにはエプロンをしたシュカがいた。
 不思議に思ってシスター・ミュライが問うと、シュカは寂しげな微笑みを浮かべて言った。
「だって…ラノンの誕生日、一度も祝えなかったから…。」
 そしてシュカは、黙々とこの木苺のタルトを作ったのである。
 その話しを皆が聞くや、シュカの魂の強さと信仰の深さに、そして何よりも心の優しさに胸打たれたという。
 シュカの焼いたタルトを前に、二人の神父はその時の事を思い返していたが、現在の難問を思い出して溜め息を吐いたのであった。
 マッテゾン神父は紅茶一口飲むと、仕方なさそうにヴェルナー神父に言った。
「まぁ、いつものこととは言え…ヴェルナー神父、このままというわけにも…。」
 そのマッテゾン神父の言葉に、ヴェルナー神父は額を掻きながら口を開いた。
「それはそうだが…。今、伝えておくべきか…。」
 言うべきか言わざるべきか迷った風に、ヴェルナー神父は目を閉じた。そして
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