乙女の章
Y-b.Largo(Actus tragicus)
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の造花であった。
白き薔薇はこの世に存在しないが、神の愛の象徴として炎と共に受け継がれていた。だが、白き薔薇だけは王家にのみその使用が認められていた。
これを王が手渡す者は側近として認められた証でもあり、死者に贈られるというのは異例なことでもあった。
こうした中でも、葬送音楽は鳴り響いて礼拝堂を満たし、大司教が聖文を読み上げる声が音楽に溶け込んでいた。
葬送ミサが終わり、音楽は最後のコラールとなったが、そこで大司教を驚かせることとなる。
演奏されたコラールは声楽を奏者が分担して歌われたが、歌詞も曲も全く違っていたのである。
通常は“憩え、愛されし者よ”の題名で知られるコラールが奏でられるが、ここで歌われた歌詞は“神よ、悲しみを消し去りたまえ”であり、歌詞自体が知られてはいない。その上、音楽までもが今までに無い斬新なもので、前奏・間奏・後奏が付け加えられたものであった。
「これは…!」
あまりのことに大司教は言葉が出なかった。
そのコラールは美しく、当時としてはあまり使用されない三連符が散りばめられ、恰も揺りかごの如き印象を受けた。
「よもや…新しき歌が…。」
横で王が感嘆しながら呟いたのであった。
このコラールは残念なことに断片的にしか伝えられてはおらず、肝心の前奏と後奏、そして歌詞の一部が欠落しているのである。無論、原譜は完全に失われている。
さて、この後にゲオルク神父は神の丘に近い森の中へと埋葬され、その場所が彼の永久の憩いの場所となった。
しかし、この出来事がまさか歴史を変える第一歩であったなど、一体誰が考えられたであろうか?
必然か、それとも偶然か…。この二人が出会わなければ、もしかしたら別の歴史があったのかも知れない。
いや…、これは神の決め事なのである。
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