乙女の章
Y-a.Air
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シスター・アルテの言葉に、ヴェルナー神父が口を開いた。
「ええ、ラノンは自ら新しき歌を創り神に捧げるそうですよ。」
それを聞き、神父達は目を見張った。
「なんと!?誰が作曲法を?」
次に口を開いたのはマッテゾン神父であった。
彼は作曲法と和声法も学んでいたのではあるが、乙女達には一度も教えてはいないのである。
「ラノンは独学で修得したようです。学ぶために、教会にある楽譜を全て写していたのです。今では穴だらけの楽譜を使わずとも、ラノンの美しい筆写譜で演奏出来ますわ。」
神父達は驚き、感嘆の溜め息を洩らした。
「まさかそのような…。勤勉であるとは思っていたがなぁ…。」
ヴェルナー神父は腕を組み、沁々とそう言ったのであった。
その後、今度はシスター・ミュライが周囲を驚かせる番となった。
「シュカは今、ラノンのために詩を編んでおります。もう少ししたら新しき神への歌が形創られましょう。」
これにはシスター・アルテも驚かされた。
この時代に「新しき歌」と言えば、古い詩に新しい曲を付けたものを指して言った。その上、詩を書く人物は極端に少なく、未だ発展途上の段階に置かれており、ここに集まった五人にも詩には全くと言ってよいほど知識がなかったのである。
それ故、シュカが詩を創作しているということは、大いなる驚きとなり得たのであった。
「どのような歌が生まれるのかのぅ…。」
ゲオルク神父は窓の外を照らし出している月を見つめ、そっと呟いた。
しかし、この五人は本来乙女の教育と監視を役目としているのである。五人はそれを忘れているわけではないが、願わくば…いつまでもこの至福が続いてほしいと思わずにはいられなかった。
だが、これ程残酷なこともあるまい。この森の教会へ着任した者全て、皆同じ思いを抱いていた。そしてこの者達はその思いを打ち砕くが如く、乙女を泉へと向かわさなくてはならないのである。
理解はしているのである。それが絶対的な“教義”なのであるのだから、自身はそれに従わざるを得ないのである。
それはどのような人物、たとえ王であれ曲げること儘ならぬものなのであった。
逃げることも許されず、かといって見ているだけでもならず…。
乙女が憐れなのか、それとも、この教会へと着任した者が憐れなのか…。
これを神の決め事と言ってはいるが、一体誰が神の言葉を聞きこの様な儀式を始めたのか…。
ゲオルク神父は常に様々な事柄を考えていたが、一向に答えの出ぬ問いに、いつしか溜め息を洩らしていた。
「ゲオルク神父、どこか具合でも?」
ゲオルク神父の溜め息に気付き、シスター・アルテが聞いた。
執務室では多くの話しがされていたと言うのに、ゲオルク神父だけは会話に加わらず、ジッと月を仰ぎ見て溜め息を洩らしたからである
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