乙女の章
X.Sonatina
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わしらも…」
「いいえ、これは私の責任ですわ。」
そう強く言い放つと、シスター・ハンナはスッと立ち上がり、抱き合う二人の乙女達へと歩み寄った。
そしてこの乙女達を包み込む様に抱くと、シスター・ハンナは二人の耳元で囁いた。
「私が先に行って待っています。そうすれば、貴女方は怖くも淋しくもありますまい…。神の御慈悲を…!」
シスター・ハンナはそう言うや急に立ち上がり、泉のある方へと駆け出したのであった。
リーゼは真っ青になり「誰か止めて!」と立ち上がって叫んだ。
何事が起きたのかと呆然としていた神父達は、リーゼの叫びで我に返り、直ぐ様シスター・ハンナの後を追い掛けた。
しかし、元来運動の得意な彼女に追い付ける者など、誰一人としていなかったのであった。
三人の神父とシスター・アルテが息を切らせながら泉へと辿り着いた時、そこには水面に波紋が幾重にも広がっているだけで、シスター・ハンナの姿は最早どこにも見つけることは出来なかったという。
暫くの後、リーゼとラノンが泉の畔で悲しみに暮れる四人の前へと姿を現した。
「私が…こんな我儘をしたばかりに…。どう償えばよいのでしょう…。」
リーゼは泣き腫らした目をしてゲオルク神父に問い掛けた。
だがこの問い掛けは、いかなる者にも答えの出せるものではないと感じたゲオルク神父は、座り込んだリーゼの前へ歩み寄って言った。
「神に聞かねばなるまい…。」
ゲオルク神父の言葉にリーゼは再び涙を流し、その傍らではラノンも共に涙を流していたのであった。
この後、リーゼはラノンに会うことは一度もなく、ずっと一人で聖所に籠り、先に行ったシスター・ハンナのために祈っていたと伝えられている。
それから後に、新しき乙女がこの教会へと連れられて来る朝、リーゼは三人の神父と一人のシスターとに見送られる様に、その身を泉へと散らせたのであった。
その時、リーゼはこのように言ったと伝えられている。
「私はシスター・ハンナと共に、必ず神の御前に立ちましょう。そして、この様な悲しいことが無くなるよう願い出ます…。」
そう言って、夏の陽射しのごとくに微笑んだと言うのである。
この話はゲオルク神父の日記に記されていたと伝えられるが、その日記は三国大戦時に消失し、今なお見つかってはいない。
本来、この教会の規定には、乙女が泉への入水を拒否した際、又はもう一人の乙女に時せずして知られた際の明確な指示がある。
その内容は、二人とも処分せよというものであった。そして、この森の最奥にある沼へと沈めるようにとも…。
理由は“神聖さ失いし者、これ神の泉に近付くことなし”という簡単な文章で書かれていた。
しかし、ゲオルク神父はこの規定を破ったのである。
それこそ真っ向から否定し、他の者にもこの話し
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