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SNOW ROSE
乙女の章
W.Sarabande
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「シュカ、そうではない。左手はもう少し優しく、そして静かに…。」
 クラヴィコードの淡い音色が礼拝堂にこだまする。
「こう…でしょうか?」
 シュカは左手のみで鍵盤を奏した。
「ああ、随分良くなった。だが、短期間でよく覚えたもんじゃ。」
 シュカの前に座るゲオルク神父が、演奏を続けるシュカを見ながら言った。
 ゲオルク神父の言葉を受け、シュカは一旦手を休めてゲオルク神父に答えた。
「三歳の時より、両親に教えてもらっていました。両親は共に、音楽を学んでおりましたので。」
 何かを思い出したのか、シュカは陰りのある顔で微笑み、再び鍵盤を奏で始めた。
 そんなシュカの隣にはシスター・ミュライが座っていたが、同じように表情を曇らせていたのであった。
 本来ならば、この地に入った者は世俗のことを語ってはならない。だがゲオルク神父は、その教義的な観念を払拭しようと試みていた。
 もう二度と、同じ過ちを繰り返さぬように…。
「そうであったか。それでは、ご両親に感謝せねばなるまいのぅ。この様に、音楽の楽しみを与えてくれたのじゃから。」
 ゲオルク神父はそう言って、ニッコリと笑みを見せたのであった。
「そうじゃ…。シュカは楽譜が読めるのじゃから、そろそろ室内楽でもやろうかのぅ。マッテゾン神父、ヴェルナー神父、それにシスター・ミュライも。皆、楽器を持ってきてくれるかの。」
「神父様、私には未だ早いと思うのですが…?」
 ゲオルク神父が急に言い出すもので、シュカは大いに慌てたのであった。
 しかし、そんなシュカの言葉を聞く間も無く、皆が楽器を持参し集まったのであった。
「シュカよ。誰も一流の音を望んでいるわけではない。楽しければ良いのじゃ。」
 ゲオルク神父の言葉は尤もであるが、やはりシュカは不安であった。
 確かに、音楽は楽しいし心が豊かになる。だが反面、大変困難でもあるのである。
 そんなシュカに、いつも顰めっ面なヴェルナー神父が言った。
「何をそんなに不安がるのだ。間違いなぞ、ここにいる皆がするに決まっておろうが。」
 ヴェルナー神父の発言に、シュカのみならず、周囲の者は皆一斉に笑ったのであった。
 彼は彼で、二人の乙女のことを気にかけているのである。
「さて、何を演奏しますか?」
 マッテゾン神父がそう問い掛けると、シスター・ミュライが意見を述べた。
「でしたら“グロリア・ソナタ”はいかがでしょうか?」
 このシスター・ミュライが提案した“グロリア・ソナタ”とは、作者不詳の六曲で纏められた室内楽用ソナタ集のことである。
 その第三番が、オーボエ・ダ・モーレ、トラヴェルソ、ヴァイオリンと通奏低音のために書かれており、外の教会ではよく演奏されているものであった。
「そうなると、わしゃリュートじゃな。どれ…」
 
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