乙女の章
V.Corrente
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こやかに笑うと、二人のシスター達は手を取り合って喜んだ。
次に、シスター・ミュライがゲオルク神父に懇願した。
「では、音楽を教えても宜しいでしょうか?」
この提案も、些か驚きであろう。この教会では、音楽を演奏した記録もなければ、演奏の出来る楽器さえないのだから…。
「それは良いが…。シスター・ミュライ、ここには楽器がない。どうするつもりかね?」
ゲオルク神父が困惑した表情で問うと、二人のシスターは互いに持参していた布袋を、目の前のゲオルク神父に手渡した。
ゲオルク神父はそれを受け取り中を確かめると、目を丸くして驚いた。
「これは…一体どうしたんだね?」
なんと、その袋の中には金貨が入っていたのである。それもかなりの額が入っており、残る二人の神父も顔を見合せて絶句していた。
「この教会に来てからずっと、何かのお役に立つと思い二人で貯めていたのです。」
シスター達の話を聞くと、教会からのお金だけでなく、この森で採れた果物のジャムや干した乾果実、それに蔦で編んだカゴなどを街で売ってきたのだという。
「こんな日も来ようかと、ずっと貯めておりました。どうぞお使い下さい。」
満面の笑みを見せたシスター達を前に、三人の神父達は頭を下げざるを得なかったという。
その金額は、とても物を売って作れる額ではなかったのである。ほぼ毎月支給されていた教会からのお金を貯めないと、この金額にはならないからである。
その後、この教会には様々な楽器が運び込まれた。
クラヴィコード二台にヴァイオリンとヴィオラが各二挺にリュート、トラヴェルソが三本にブロックフレーテがソプラニーノからコントラバスまで各二本、それにオーボエ・ダ・モーレにコルノ・ダ・カッチャなど…。重複して購入したものは教えるためであるが、これだけ購入しても、未だ資金が余ったというのは驚きであった。
実は、この教会にいる五人だが、皆音楽をを何かしら修得している。それだけでなく、多くの学問や芸術にも精通しており、それはこの教会に着任するには必要不可欠な条件でもあったのである。
その力を必要としないはずであるのに、なぜ条件としてあるのか?
その理由として挙げられるのは、この森で殉教した聖グロリアの影響である。
一説によると、彼女は神学のみならず、数学、天文学、種々の外国語、芸術など多くの知識があったと伝えられている。
聖文書編纂以前に書かれた“リッヒェ古文書”に、この聖グロリアのことが断片的に記されている。
―この大地の言葉を自在に語り、天の星々から意味を読み説くことが出来た。また、種々の楽器を操り、数多の人々の魂を癒した…―
この“リッヒェ古文書”は、どういう経緯で記されたかは知られておらず、現教会編纂の聖文書には纏められてはいない。
しかしながら、このよ
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