乙女の章
U.Allemande
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のためか、この森は邪な者を遠ざける力を宿されたのだとか…。
それ故、悪意ある者がこの森に入り込むと必ず迷い、そして死に到るとされ、誰も近付こうとはしなかったのであった。
それは、人間本来の恐怖心からくるものであったのかも知れない。
さて、カゴいっぱいに木苺を摘んだラノンとシュカは、木陰にてお茶を楽しんでいた。
心地よい風がそよぎ木々をざわめかせ、木の葉の隙間から初夏を思わせる陽射しを二人に注いだ。
「ほんとに良い日和ねぇ。来て良かったわ。」
ラノンが木漏れ日に目を細めながら、傍らに座るシュカに言った。
そこでシュカも微笑み、「そうね。」と返事をしたのであった。
そうした優しい日々は二人を包み込み、この平安はいつまでも続くものだと信じていた。
シュカだけは…。
ラノンは知っていたのだ。これからどのような運命が自分を待っているのかを…。
だが、それを語る必要はないのだ。妹のようなシュカを、わざわざ心配させる必要性がどこにあるというのだろうかと、ラノンは心の中で一人呟いたのであった。
出来るものなら、シュカだけはこの運命から逃れさせたいとすら思っていたのだが、それを口に出せば、もうシュカとこうして出掛けたり、話したりすることも叶わぬ願いとなってしまう。
ラノンはそのことを、誰よりもよく知っているのだから。
それは一つ前の乙女、リーゼのことがあったからである。
それはまた、後に語るとしようか。
二人は暫く午後のお茶を楽しんだ後、日が陰る前に教会へと帰っていった。沢山の木苺の入ったカゴを抱えながら。
教会の前まで辿り着くと、二人のシスターが出迎えてくれていた。
シスター・アルテは生地の用意を整えてあり、あとは焼くだけになっていたので、カゴいっぱいの木苺を見たときは歓喜の声をあげていた。
シスター・ミュライも満面の笑顔になり、ラノンとシュカを急かして教会へと入って行ったのであった。
二人のシスターは早速仕事に取り掛かり、食堂はタルトの香ばしい匂いとジャムの甘い薫りが広がった。
それだけで、ラノンもシュカも幸せになる。
「きっと神父様方も喜ばれるわね!」
そうシュカが言うと、ラノンもニコニコと微笑みながら「早く帰ってこられないかしらね?」と言ったのであった。
しかし、ラノンの表情に陰りがあることは、誰一人として気付く者はいなかったのであった。
―これが永遠であったら、どれだけ幸せでしょう…。―
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