42舞の全身集合
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して気が付かなかったんだろう」
一弥はメイドの腕や胸を呪いで焼きながら、愛しげに育ての母の胸に顔をうずめた。
「そんな、私はただ、お勤めを果たしただけで」
「じゃあ、どうして泣くの? 僕がこんな化け物になってしまったのが悲しいんだろ?」
メイドの涙は一弥の腕?にも届き、一番欲しかった愛情を受け取ってしまった一弥は浄化されて行った。
「ああ、姉や、僕はまた消えてしまうよ、でもその前に本当のお母さんに逢えたんだ、良かった」
「そんな、勿体のうございます」
涙の雨は、穢れきった魔物の心を癒やし、汚れた体は光を発し、敵であった姉の体に宿るための準備を始めた。
「また僕を育ててくれるかい? 今度はきっと強い子に生まれて来るよ」
「はい、お任せ下さい」
メイドは焼ける腕も肌も気にせず一弥を抱き締め、愛しい我が子を受け止めた。
「ああ、意識が薄れるよ、僕はまた死ぬんだね? でもいいよ、姉やの腕の中で死ねるんだから。ねえやの本当の子供に生まれたかった、ありがとう、おかあさん」
「一弥様っ!」
一弥を失い、自分の人生が徒労に終わり、最も打撃を受けていたにも関わらず、家族のように泣くことも許されなかった女性も、今の一言で全てが満たされた。
「姉やにこの後の地獄を見せるのは嫌だけど、もう少し生きて。僕が自分で動けるようになって姉やを、お母さんを守れるようになるまで育ててくれる?」
「はいっ、はいっ!」
自分がこの役目を果たすはずだった姉はメイドに嫉妬し、幼かった自分の愚かな行いや考え方を後悔した。
「僕の力を受け取って。この世が滅びる時でも、カグヅチやヒルコの母なら神域を超えられる、岩戸の向こうで生き延びられる」
姉に渡したくなかった力を、全てメイドに託し、不老や不死を与えようとする一弥。メイドにはそんな物は必要なかったが、再び一弥を育てるための力、必要になったときに一弥に返す力として、人間の体では受け止められない罪の数々をその身に刻んだ。
「爺や、お別れだよ、またね」
「はい、一弥様」
別れが今だとは思っていなかった爺やも、涙と笑顔で次期当主を見送った。
「姉や、今までありがとう、またね、お母さん」
「一弥っ!」
我が子の名前を呼んだ時、それは力を失って僅かな欠片を残して砕けた。その欠片、魂のような物は佐祐理に無かって飛び、新しい体に宿った。
「あっ?」
佐祐理には一瞥も与えず、何の言葉も約束も交わさず、ただ新しい体だけを求めて入って来た命、その生命に対し姉は、母はもう一度、憎しみの炎を灯した。
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