41天使の人形の記憶
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げる場所もなく、生きるために人を切り裂き、命を食らい続けた化け物にも、美汐は真心と愛情で答えた。
「ああ、これは僕の怪我じゃないんだ、ありがとう。そっちの僕、迎えに来たよ」
「えっ?」
その張り付いたような笑顔に見覚えは無かったが、血に染まった服やズボン、自分と同じ靴には十分見覚えがあった。
「これを覚えてるだろ?」
「ヒッ、しらないっ、しらないっ!」
思い出してはならない記憶を引き出されそうになり、必死に抵抗する祐一。
「この名前を思い出せ『月宮あゆ』」
「うっ、うあああっ!」
天野の家で貰った愛情や術、結界、秘薬や食事で忘れさせられていた恐怖と苦渋と呪いを思い出し、激しい痛みで頭を抱えて座り込む祐一。
「ゆうくんっ」
「さあ、どうした? 思い出せ」
血に濡れた両手で捕まえられ、ヌルっとした赤黒い血の感触と、生臭い匂いが鼻を突く。
「うわああああっ!」
「さあ、一緒に来い、僕達は『あゆちゃん』のために生まれた、だからまだ目を覚まさない『あゆちゃん』の前にいないと駄目なんだ」
「秋子様っ、どうかお助け下さいっ」
お婆さんの願いも虚しく、首が横に振られ、祐一本人の意思が優先された。心の葛藤のように強い意志を持つ方が勝つ、周りの者はその行末を見守るしか無かった。
「でもっ、みーちゃんが、みーちゃんがっ」
一人で置き去りにしてしまう少女を思い、その手から逃れようとする祐一。
「この子は死にはしない、それどころかこいつは『自分の他に好きな子がいるなら、治らなければいい』と思っている」
「え?」
「お前があゆちゃんとだけ遊んで、こいつと遊ばなくなるのを恐れている、だから『そんな子は死んでしまえ』って言ってる、聞こえたな?」
「う、うわあ」
聞こえないようにして来た、美汐の心の闇。
「さあ言え、お前はどこに行くんだ?」
「あ、ああ……」
「『あゆなんか死ねばいい』と呪っているこいつの所か? それとも誰かが守らないと舞やこいつに呪い殺される『あゆちゃん』の所か? どっちだっ!?」
『ぼ、ぼくは、あゆちゃんのところへ行くっ! あゆちゃんのゆめの中へっ!』
魂の言葉を叫ぶと、全身が光り始めた祐一。
「そうだ、それでいい」
美汐の祐一も、天使の人形に取り込まれ、こうして祐一の使い魔の大半が失われた。
「さあ、行こうか」
小さな翼を羽ばたかせ、天使の人形、あゆの祐一は病院へ戻った。
「ゆうくんっ、ゆうくんっ!」
「美汐、未練じゃ、お前は天から授かった子を好いてしもうた。わしと同じじゃ、苦しいのう、悲しいのう、でも別れは必ず来るのじゃ」
そう言い聞かせても自分と同じく、失った物の大きさに代わるものなど無く、心に空いた大きな穴を塞ぐ方法は数十年経っても、その血を継いだ孫を抱いても見付からな
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