40事件後
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祐一はまだ夢を見せられていた、失った記憶の大切な部分を。そして天使の人形も、この場所を捨てた祐一が何を見てきたのか、記憶の整合性を整えていた。
あゆが怪我をした次の日から、子供の舞はいつまでも待っていた。いつもの麦畑に朝早くから息を切らせて走って来て、日が暮れるまで待っていた。
(来ない……)
日が暮れて、お腹がすいて家に帰っても、何故か舞の残像がそこにいた。
(…やっぱり、わたしがこわいんだ)
やがてその思いは、怒りにも似た感情に変わって行く。
(…またアレを見たから気もちわるいんだ、わたしをきらいにならないで)
その願いは心を砕き、自分自身すら憎む心が大きくなって行く。
ザワザワザワザワ……
舞の周りで何かがざわめいていた。
「どこかへ行けっ、化け物っ!」
一瞬、ざわめきが収まったが、湧き上がる感情と共に、ザワザワと何かが蠢き出す。
その頃、水瀬家では。
「秋子、どうしよう? お前の術が効かないんじゃ、あの子は、あの子はっ」
「仕方無いわね、川澄の娘を連れて来て」
「いやっ、それだけは嫌っ!」
「我慢して姉さん、月宮の術者でも、何人か命と引き換えにして、生き返るかどうか分からない」
あゆとの別れの後、すっかり落ち込んで、自分の部屋に篭っていた祐一。静まり返った部屋にノックの音が響く。
「ごはんだよ、ゆういち、ここ、おいとくから」
いつまでも出て来ない祐一を気遣い、部屋の外に食べ物を載せたお盆を置いて行く名雪。
「……食べたくない」
あの日から何も食べず、布団の上で膝を抱えてうずくまっている祐一。
「どうしてっ、たべないと、しんじゃうよっ」
そこで、今一番言ってはならない言葉を使ってしまい、ハッとするが、中からは何の反応も無かったので、思い切ってドアノブを回して見た。
(あいてる)
トイレから戻った時に鍵を掛け忘れたのか、ベランダからも入れなかった祐一の部屋の扉が開いた。
「入るよ」
返事が無いので部屋に入る名雪。
「どうしたの、しっかりして、ゆういちっ」
「だめなんだ」
「えっ?」
「ぼくのともだちは、みんなしんじゃうんだっ、みんなっ、みんなっ!」
目の前で男の子が泣く所を見て、母性本能をくすぐられる名雪、その胸の奥で、何かがキュっとなった。
「そんなことないよ、わたしやお母さんは、どこにも行ったりしないよ、ゆういちを一人にはしないよ」
「うそだっ! すぐに血でいっぱいになって、うごかなくなるんだっ!」
洗っても落ちない血を見ているように、両手を震わせて泣いている祐一。
「だめだよっ、思い出さないでっ」
祐一が壊れるのを恐れた名雪は、泣いている祐一をギュッと抱き締め、胸の中に顔を埋めさせた。
「なゆき……?」
「ほら、こうしてるとおち
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