40事件後
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霊か何か、不気味な物が視界の端を動いている程度にしか認識できなかった。
『あの子も、お姉ちゃんが歌ってくれたから、もう怖くないんだって、もう痛くないんだって』
普通なら、夜に突然現れた何かに話し掛けられれば、大声を上げて驚くか、使用人を呼ぶ所だが、佐祐理は「お姉ちゃん」と呼ばれた時点で壊れた。
「一弥っ、一弥なんでしょ?」
祐一の影の表情までは認識できなかったのか、佐祐理には一弥が幽霊になって帰って来てくれたのだと思えた。先日の出来事は、秋子の声で封印されていたので、何も覚えていない。
『名前は… 知らない、でも、お姉ちゃんの事は覚えてるよ。今日はこの間のお礼に来たんだ、僕にできる事だったら何でもしてあげる』
自分の名前も知らない祐一の使い魔。しかしその心と体は「あゆちゃんを助けたい」と言う純粋な願いで組み上げられ、今日はそれを助けてくれた佐祐理に礼をしに来ていた。
「じゃあ、もうどこにも行かないでちょうだい、お姉ちゃんを一人にしないでっ」
「うん…」
佐祐理の願いは心の声で祐一に届いた、「弟の一弥と一緒にいたい」と。先日の事故で力の使い方を覚え、舞、栞、秋子、佐祐理、名雪の力を見てからは、もっと力が使えるようになった祐一は、倉田家に残っていた一弥の残留思念を取り込んだ。
祐一にしても、何の繋がりも無く、この場に長く存在できなかったので、それは好都合と言えた。
「ねえ、お腹すいてない? のどは渇いてない?」
『ううん、だいじょうぶ』
「じゃあ、何かして欲しいことは無い?」
『う〜ん?』
願いを叶えるはずが逆に問われて困るが、祐一はあの心地良い歌声を思い出した。
『じゃあ、また歌ってくれる?』
「ええ」
祐一の影に近寄って膝を付き、大切な物を取り戻したように、しっかりと抱き付いて、涙を流しながら歌う佐祐理。
やがてその歌声は心に染み入り、一弥が持っていた恐怖や苦痛を取り除いて行った。
『僕、もう怖くないよ、お姉ちゃんと一緒だから、ずっと見てたから』
「か、一弥っ」
もう歌い続ける事もできず、祐一の肩に顔を埋めて泣き始める幼い佐祐理。
それから夜中まで、飽きる事無く話し、昔のように遊んでいたが、月が傾いた頃、祐一はこう言った。
『あの、僕、朝になる前に帰らないといけないんだ』
「えっ?」
一弥と別れるのは辛かったが、幽霊なら夜にしか出られないのだと思う佐祐理。
「じゃあ、明日も、明日も来てくれるわね?」
『うんっ』
「きっとよ、約束して」
『うんっ』
その日から外に出ようともせず、カーテンを閉めて昼間に眠り、夜になっても照明を消したまま遊んでいる佐祐理。それを不審に思い、使用人の一人が部屋を覗き込んだ。
『お姉ちゃん、誰かが見てる』
「えっ?」
佐祐理も本能的に、こ
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