40事件後
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だ。
『さよなら』
「うん…」
たった一言の別れ、しかし、お互いの一部を交換し合っていた二人には、それ以上何も必要なかった。
引き寄せられるように自分の体に戻る途中、自分と同世代の少年に出会った。
「お帰り」
「ただいま」
その張り付いたような笑顔に見覚えは無かったが、血に染まった服やズボン、自分と同じ靴には十分見覚えがあった。
「これを覚えてるだろ?」
「少し」
思い出してはならない記憶を引き出されそうになるが、栞との絆があれば、怖れる物は何も無い。
「じゃあ話は早い、一緒に病院に行こう」
「いやだ、あゆちゃんはだいじょうぶだよ」
名雪の言葉を繰り返し、あゆは大丈夫だと言い張る。自分に必要なのは、本体に合流して、栞が消耗した時、いつでも駆け寄って力を分けられるようにする事。
「違うな、あゆちゃんは今でも病院で死にかけてる」
「でも、僕には何もできない、僕は栞ちゃんが消える時、必ず迎えに行く。君もあゆちゃんが消える時、そうすればいい」
「僕は嫌だ、生きているあゆちゃんと会いたい。君も生きている栞ちゃんと会いたいだろう?」
血に濡れた両手で捕まえられ、ヌルっとした赤黒い血の感触と、生臭い匂いが鼻を突く。
「うわあっ!」
「さあ、一緒に来い、僕達が集まって、力を付ければ栞ちゃんの病気も治せる」
「ほんとに?」
「そうだ、それに僕達は『あゆちゃん』のために生まれた、だからまだ目を覚まさない『あゆちゃん』の前にいないと駄目なんだ」
「でもっ」
一人にしてしまった栞を思い、約束を果たせなくなるのを怖れ、天使の人形から逃れようとする祐一。
「栞ちゃんはいつ消えるのかな? また駆け回った時? それとも君を追って遠くまで跳んでしまった時? 後一ヶ月? それとも…」
「ちがうっ!」
「体は家に帰ってしまうのに、どうやって見守るつもりだい? 病院にいればいつでも近くにいられる、飛べばほんの数十秒。さあ言え、君はどこに行くんだ?」
弱い所を突かれ、考え込む栞の祐一。
「…いつでも栞ちゃんを見守れるなら、一緒に行ってもいい」
「そうだ、それでいい。 あゆちゃんを助けられれば、栞ちゃんも助けよう」
「うん」
キイイイインッ
交渉が成立すると、全身が光り始めた栞の祐一。 こうして栞の祐一も、天使の人形に取り込まれ、祐一の使い魔のうち四体が失われた。
「さあ、行こうか」
小さな翼を羽ばたかせ、天使の人形は病院へ戻った。
あゆの事件の後、佐祐理の元にも祐一の影が訪れていた。番犬のいる庭を飛び越え、照明が消えた部屋の窓も開けず、闇から湧いて出たように。
『あの… お姉ちゃん、この前はありがとう』
「えっ?」
もちろん普通の人間にその姿は見えず、妖狐の血を引いた佐祐理と母を除いては、幽
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