40事件後
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「ちがうよ、おともだち、あそんでもらってたの」
妹の隣に並んだ奇妙な何かに怯え、2,3歩後ずさる香里。
『うん、この間のお礼に来たんだ』
その声を聞くと、術にかかって、次第に祐一の姿がはっきり見えて来た香里。その頭の中では、同年代の子供が暗がりから現れ、街灯の下に出て来たように記憶が書き換えられて行く。
「そ、そうだったの… でも、もう遅いから帰りなさい、お母さんが怒ってるわよ」
「ええっ!」
自分達や父を容赦なく叩く、あの母親が怒っている表情まで見えた栞は、慌てて帰ろうとした。
「じゃあ、今日はありがとう、もう帰るねっ」
『うんっ』
少しだけ願いが叶えられたので、心地良く帰る祐一の影。美坂家でも、真っ白な顔色をしていたはずの娘が、血色も良くなり、夕食を残さず食べたので驚いていた。
そんな幸せな日々が、いつまでも続くかと思えた。しかし、休みの終わりが近付くと、栞の祐一も、舞の祐一と同じ事を伝えた。
『あの、もう帰らなくちゃいけないんだ…』
言葉は少なくても、縁の出来た栞には心の声でその意味は届いた。全てを心の声で会話していた舞ほど正確ではなかったが、「もう会えないかも知れない」「母親はここから離れて、二度と来たくないと思っている」と伝わった。
「え…?」
そして栞からも様々な戸惑いが聞こえた祐一。悲しみ、寂しさ、二人で繋がっていなければ、きっと自分は死んでしまうと言う怖れ。それは饒舌でなかった分、余計に祐一の心に重く圧し掛かった。
「ごめん…」
沈痛な表情の祐一、しかし、栞は笑顔でこう答えた。
「じゃあ、私が死んじゃう時だけでいいから、むかえに来てくれる?」
『ええっ?』
永遠の別離の前に、最後の願いを伝える栞。以前から、祐一が普通の人間と違うのは気付いていたので、幼いながらも自分も幽霊になれるなら、一緒に連れて行って欲しいと思っていた。
『うん… その前に迎えに来るよ、絶対』
まだ無力な自分でも、遠く離れていても、その瞬間だけは分かるような気がした。そして栞が生きていけないなら、自分と同じ存在にして、祐一の体に取り込んでしまおうと考えていた。
「約束よ」
『うん』
そこで、テレビで見て、こんなシーンではこうすると思っていた栞は、祐一に近付いて唇を重ねた。舞にも詰め寄れなかった、現世と幽界の距離を一瞬で駆け寄り、祐一の体にも届くよう、暖かい口付けをした。
『あっ…』
初めて女の子と交わしたキス、心の篭った契約の印。こうしてまた因果律の歯車が一枚増え、栞の命が尽きる前には必ず祐一が呼び出される事になった。
その日、夜が白み始めるまで抱き合って過ごした二人。やがて祐一が存在出来なくなって来た頃、何度も口付けを交わして、二人の絆が切れないほど強くなってから、別れの言葉を紡い
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