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KANON 終わらない悪夢
40事件後
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さな手ですくった水を手渡すような効率の悪い方法だったが、今の栞にとって、喉を潤すのに十分な量だった。
「あっ、ほんとに…」
 今までの自分に欠けていた何かを受け取り、急に体に力がみなぎって来た栞。
 本来なら一弥のように力を使い切り、幼い頃に命を失うはずだった栞は、この日から暫く、命を吹き込まれたように元気になった。
『じゃあ、何して遊ぶ?』
「う〜ん?」
 元気に遊んだ事の無い栞は、普通の遊びを知らなかった。姉が付き合ってくれる「おままごと」や「あやとり」など、座ってする遊びしか出来なかった。
『かくれんぼする?』
「うんっ」
 珍しく微笑んで、元気に答えた栞。しかし、周りにいた子供達は、魔物の気配に怯えたのか、夜の闇が迫る公園から逃げて行った。
「じゃあ、最初は僕が鬼になるから、どこかに隠れてて。「もういいかい」って聞くから、まだ隠れてない時は「まだだよ」って言ってね」
「うんっ」
 最初は魔物の祐一が鬼で、栞は元気に走って隠れる場所を探した。
『もうい〜かい?』
「ま〜だだよっ」
 普通なら魔物に追われれば、他の子供と同じように泣きながら逃げて行くはずが、栞は物陰に隠れてワクワクしながら待ち、楽しそうに笑っていた。
『もうい〜かい?』
「もういいよっ」
 既に絆が出来た二人は、まるで磁石が引き合うように、お互いのいる場所が分かった。それは栞が鬼に代わってもも同じで、「かくれんぼ」には成り得なかった。
『み〜つけた』
「うふふっ、どうしてすぐわかっちゃうの?」
『さあ? あの時と同じで、離れててもすぐに分かるみたい』
「じゃあ、かくれんぼできないね、ふふっ」
『今度は鬼ごっこしようか」
「うんっ」
 まだライトアップもされていない、公園の噴水の周りを楽しそうに駆け回る二人。すでに日は沈んでしまったが、祐一にとっては、明るく輝き始めた月と星が日の光だった。その力を受け取ってしまった栞も、夜の眷属として、暗闇こそが過ごし易い場所になり始めていた。
「うふふっ」
『あははっ』
 自分の体の状況も忘れ、駆け回り、笑い合う栞。やがてそこに、いつまでも帰って来ない妹を迎えに、姉が探しに来てしまった。
「栞っ、いつまで遊んでるのっ、早く帰りなさいっ」
「えっ?」
 体が弱いはずの妹が、何故か元気に走っている光景。しかし香里は、得体の知れない何かが妹を追いかけ、声を掛けた自分の方を向いたのに気付いた。
「きゃああっ!」
 薄れてしまった力しか無い香里だが、薄暗い公園の中で、ぼやけた魔物の姿が見えた。
「どうしたの? おねえちゃん」
 幽霊のような化け物を見れば、こうやって悲鳴の一つも上げるのが普通の子供の反応だったが、栞にだけは、祐一が現実に存在しているように見えていた。
「そっ、それっ、幽霊っ!」
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