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KANON 終わらない悪夢
40事件後
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ろげな姿ではなく、くっきりと見える体の輪郭、背中に生えた羽、頭の上の光輪、そして何よりも、血に汚れた服と両手。
「どうしたのっ? 怪我したのっ?」
 その姿は明らかに一弥では無かったが、いつもの雰囲気に似ていたのと、一弥の気配も感じ、まず体の心配をしてやる。
『ううん、怪我じゃないんだ。それに僕は一弥君の友達、一緒に来てるから交代するね』
 血に濡れた両手で顔を隠し、ほんの一瞬、一弥に体を貸してやる天使の人形。やがて、光輪と羽は残ったが、顔も服装も一弥に見えるように術をかけて行く。
『お姉ちゃん?』
「ああっ、一弥っ、一弥っ!」
 懐かしい弟の顔を、はっきりと見て抱き付く佐祐理。しかし、その姿と心の声から、一弥は別れのために来たのだと悟る。
『今日は、お別れを言いに来たんだ』
「どうして? お母様がいるから?」
『ううん、もうここに来る力が残ってないんだ。だから友達と一緒に行くけど、いつか帰って来るから』
「えっ?」
 先程見た「友達」は、とても邪悪な感じがした。体に付いた血ではなく、張り付いたような笑顔と、何かを憎み呪う心の声。それはいつも一弥を乗せて来た、純粋な存在とは全く違う感じがしていた。
『悪い友達じゃないよ、僕を生き返らせてあげるって、約束してくれたから』
 天使の人形からも、佐祐理に対する「感謝」の心と、「約束」が伝えられた。まだそれは、力の弱い自分にとって、とても難しい作業だと言う不安と共に。
「どのぐらい待てばいいの… お姉ちゃん、そんなに待てないよ」
 弟と話す時にだけ使う自分の呼び名、それを口にした時、猛烈な孤独感に襲われ、涙声になる佐祐理。
 天使の人形からも「同情」と「悲しみ」の共感が得られたが、その心の中には一弥より優先順位の高い誰かがいた。
『分からない、でも、いつも見てるから』
「ええ……」
 窓から月明かりが差し込み、まるで昇天するように去って行く一弥。
『また、会いたくなったら、夢の中で』
「何て言ったの? 教えてっ、もう一度教えてっ!」
 バルコニーに立って、必死に手を伸ばす佐祐理。しかし、融合のために力を使い過ぎた天使の人形は、その姿を保てなくなる前に術を解いて消えた。
「一弥〜〜っ!!」
 暗闇に佐祐理の絶叫が響く。諦めていた弟との再会、そしてまた訪れた別れ。それは幸せが大きかった分だけ、大きな傷を残した。
 その日から佐祐理の心は一弥の声、つまり祐一の魔物の声が、いつでも聞こえるように固定された。祐一と再会した時、思った事が全て聞こえてしまうほど深い絆を残して。

(佐祐理お姉ちゃんの話はもう少し続くよ)
 天使の人形から伝わる夢、出会いと絆と別れの悪夢は続く。

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