39座古
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行ってあげますから」
車の中で祐一を慰め、ハンカチで涙や血を拭ってやる佐祐理。
「お嬢様、私が致しますので」
「いいんです、さあ、もうすぐ森ですよ」
その頃、一匹の獣が走る先に、道を譲るように森の木々が獣道を開いていた。何より異様なのは、その姿がサンダル履きでエプロン姿の、若々しい主婦だった所である。
「祐一君っ!」
木々の最も深い場所を掻き分けて秋子が現れたが、既に事態は収拾しようとしていた。
「あきこさんっ、あゆちゃんが木からおちたのっ」
「…けがはだいぶよくなった、でもおきない」
あゆを抱えている少女を見て、その異様な雰囲気と大きな力で、すぐに誰だか気付かされる秋子。
「あなた、川澄さんね?」
首だけ動かして返事をするが、それはまだ癒しの力を持つ舞だった。
「あゆちゃんっ!」
そこで後ろからも、祐一の声と気配がして驚く秋子。
「まさかっ?」
振り向くと、その姿は掻き消すように無くなり、気配も消えた。
「お嬢様っ!」
目の前で消えた少年を見て、運転手も異常な事態に気付く。
(狐様か?)
先代から仕えていた運転手は、倉田家の勤めのため、妖狐の存在も知っていた。
「どうされましたっ? 私は倉田家の者です、外に車がありますので、病院までお送りします」
「ええ、お願いします」
「びょういん?」
「「「「えっ?」」」」
「わたしのっ、びょういんっ」
周囲の景色が歪み、大人達が平衡感覚を失うと、そこはすでに病院の敷地内だった。
「おおっ!」
「ひいいいっ!」
当然のような顔をしている子供達と違い、立っていられずその場に座り込み、驚いている倉田家の面々。
「ここでいい?」
「今のは貴方がやったの?」
「はい」
秋子の剣幕を見て、怖気づく栞。
「その力は、何があっても使ってはいけないのよっ、でないと貴方はすぐに衰えて死んでしまう、忘れなさいっ」
今までは人が走るように、当然のように使って来た力、走れない自分のためにある、見えない翼だった。
「ゴフッ」
しかし、秋子が注意してもすでに遅く、八人も移動させた栞は、真っ青な顔をして倒れた。
「「「「あっ」」」」
あゆを祐一に返し、秋子に抱き起こされた栞に手を当てる舞。
「貴方もその力を使い過ぎてはいけませんよ、この子ほどではなくても、長生きできなくなりますから」
「…はい」
『では、この子を病院に』
「「はい……」」
秋子の命令で、虚ろな目になった運転手があゆを連れて病院に入り、侍女も付いて行った。
「すみませんっ、急患ですっ」
「内科ですか? 外科ですか?」
面倒臭そうに事務的な言葉を発する受付を見て、秋子が口を挟んだ。
『数メートル上からの転落、見た通り切り傷と打撲。もし治らなければ、
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