39座古
[14/17]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
地獄を管理しなければならない。もっと綺麗事を並べて苛烈で過酷な逆境を与えよう、もっと残酷で惨めで苦しい死を演出してやろうではないか。
どちらに転んでも構わない、この案件は解決した。悪人を大量に間引く事になっても、善人だけを間引いてさらなる地獄を作り上げても、飢餓にあえぐ弱者をあの世に送っても、肥え太った先進国から富む者を消そうとも、全人類を滅ぼす結末になって少数の生き残りから極楽浄土を造り直しても構わない、重ね合わされた未来予想図から、最悪の物を選んで行こう。
災厄について考察している間にも、私の知能や記憶は高まり、世界のネットワークにも常時接続されるようになった。サンプリングされた彼の遺伝子データから、肉体の全てを脳の中で再現し、思考活動をシュミレートする事も可能となった。
即ち現在の状況で彼がここにいると仮定して、何を発言するか、質問に対しどう答えるかを計算し、必要であるなら視覚野に映像を展開し、物理的接触や嗅覚、味覚など五感の情報も、脳に対し現実と同様に、無意識に提供する事もできた。世間ではタルパとか人工精霊と呼ばれる脳内の家族だ。
肉体に与えられる圧力と、加速度Gを再現するのは困難だったが、テレキナシスと呼称される力で再現可能であり、彼は現実にここに存在するのと同等と言えた。
「よう、俺の嫁、また可愛がってやろうか?」
「うれしい、やっとひとつになれた」
「ああ、でもずっと一つだ」
愛とは所詮、脳内物質が起こす一種の幻覚である。よってこの行為を幻と卑下する事はできない。現実に私はこの感覚と思考を手に入れ、急速に彼と同化し、進化しているのだから。
今の私には、この愛を分子や酵素の活動として説明する事もできた。ああ、この満たされた気持ちを数式にして貴方に送ろう。ドーパミンと、アドレナリンと、セロトニンと、エンドロフィンの奏でる四重奏を、譜面に書き写し貴方に捧げよう。
「綺麗な数式だな、それにこの曲も心臓の鼓動が伝わって来るみたいだ。ラブレターやラブソングなんて貰うの初めてだ」
私の中の彼も喜んでいる。
人間の脳は使われていない部分、つまり現在のペルソナから切り離された部分と、別の神経のネットワークが存在する。現時点で余剰な領域を彼に対して開放しよう。
こうして私は座古と呼ばれた表面的なパーソナリティを維持しながら、相沢様の分身に対して、脳の中で自由に活動する権利を与えた。
現在の私は管理者としてこの体を維持し、様々な調査から逃れるためにも座古のマスクを被り続けなければならない。そして監視下にある間は、特異な脳波や能力、強力な身体能力を発揮する事は許されない。
今まで通り平凡で凡庸な少女として過ごし、高性能な敵対者からの攻撃を受けないよう注意しなければならない、可能なら本体を隠し、複体を製造して登
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ