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霊群の杜
七人同行
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―――独り者は、暇だよな?


電話の向こうの綿貫は、強引に独り者の俺を暇と断定し始めた。これは面倒事を押し付ける時の、奴の定石だ。…何で俺の周りは面倒事を押し付けようとする奴ばかりなのだ。
『乗り合いの釣船をチャーターしたいんだけどよ、何故かこの日は予約の人数が足りなくて船が出せないらしいんだよ』
…なんだ、海釣りの誘いか。
ここのところ、気持ちが安らがない日が多かったから、文字通り渡りに船だ。
「おー、行く行く。丁度釣り行きたかったんだ」
『よーし決まり。誰か誘える奴いたら5人でも6人でもOKだからな』
「そんなに人が集まらないの?いい季節なのになぁ」
『なー。逆に入れ食いかもな!』
「はは…いつだよ」
『24日!じゃ、7時出発だから6時半に埠頭に集合な!!』


―――スマホを握りしめたまま、俺は固まった。


よりによって、この日か。…予約が少ないわけだ。
「ふぅん…24日。どういう日か知って、お前は船で出るのかい」
傍らで寝そべって本を繰っていた奉が、俺の顔を覗き込んで来た。洞の奥に溜めてある古い木綿の羽織をごっそり持ち出して、布団代わりにして包まっている。…寒いが布団を出すのは面倒なようだ。
「…一応な。でも」
「只の、言い伝えだからねぇ。若い者が遊びを自粛する理由としては、ちと弱いか」
くくく…と笑いながら、奉は本を閉じた。
「10月24日のことを聞かされていないのか。そいつはよそ者だねぇ」
「県外だ」


もうずっと昔の話。
絶え間なく吹き抜ける潮風と、屏風のようにこの地を囲む切り立った山のせいか、農作物がよく育たなかったこの地では、度々凄惨な『行事』が繰り返された。口減らしか、一種の呪いだったのかは知らない。ただ凄惨な行事…恐らく、弱い者が殺される系の儀式と思われる。
その儀式が行われたとされる日が、10月24日。旧暦か新暦かは知らない。
実は俺は『行事』の詳しい内容を知らない。それは恥ずべき記憶として、漁師達の間で口伝で伝えられる。彼らに聞いてみれば、地元民になら割と話してくれるらしいが、俺はそこまで興味を持ったことはなかった。

―――それと似たような話を、奉から聞いたことがある。

飢饉の際、一家の主婦を『じゅごん』に見立て、食らい沈めた漁民達の禁断の儀式があったという。ただそれは必要に駆られて、罪の意識に苛まれながら行った儀式ではなかったか。当然、日付など決まっているはずがない。
10月24日の儀式は、多分少し違う。はるか古代から連綿と受け継がれてきた、土着信仰のようなものだ。
とにかく地元の漁師は勿論のこと、年寄連中もこの日は物忌みと称して海には近づかない。外出も控えるという。船出なんてもってのほかだ。予約さえ入れば船を出す
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