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霊群の杜
七人同行
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の営みよ。第一、あの集団ヒステリーの真っ只中で俺に何が出来る」
―――冗談じゃない。じゃあ、あいつらは。
「…あいつらは、八人目を手に入れるために?」
「そうだねぇ。…船室にでも潜んでいるといい。誰か一人、取らせれば消える」
「奉!!!」
…冗談だ、と渋々呟きながら、奉が立ち上がった。
「取らせなければ、取りに来るぞ」
しゅ…と、俺のすぐ脇を細長いものが煌めいて飛んだ。反対側の甲板から鋭い悲鳴が聞こえた。
「いってぇ!!ダツだ!!」
鼻の尖った細い魚が、乗り合い客の一人に刺さっていた。
「ダツが!?夜釣りでもないのにか!?」
ダツという魚が、夜釣りの灯りに誘われて飛び込んでくるとは聞いたことがある。矢のように飛んでくる尖った顎は時に釣り人を傷つけ、運が悪いと命を落とすことすらあるという。
「ほら、来たぞ。取りあえず俺をダツから守れ」
「出来るかっ!!」
「出来るじゃねぇか」
「……あぁ」
俺は飛んでくるダツを目で追いながら、背後の鎌鼬を強く意識した。…つむじ風が、大きく膨らんだ。
「きじとらさん、皆を船室に!」
宙を舞う魚の群れは、上空で輪切りとなって落ちた。
甲板に残った俺と奉に目標を絞るように、ダツは次々と飛来する。鎌鼬のつむじ風は、きゅるきゅると旋回しながら次々とダツを切り裂く。やがて甲板はダツの血飛沫と骸で満たされた。それでも、この海域にこんなに居たのかと呆れる程に、ダツは飛来し続ける。
「どうする気だ、奉」
こんなに長い間、鎌鼬を酷使したのは初めてだ。だから気が付かなかったのかも知れない。…酷い頭痛がしてきた。
「考えがあるなら早くしろ、もう持たないぞ」
「そうだねぇ…奴らの、顔は見えるかい」
「顔!?」
魚を踏みながら船に近付く『彼ら』は、もう顔を視認出来る距離まで近づいていた。…何という事だ。先頭の一人を除いて皆、幼い子供だ。親から無理やり引き離され、酷い怒号を浴びせられながら、放り込まれたのだろう。怯えも恨みもそのままに、大きく目を見開いたまま、涙を流している。一瞬怯んだ俺の真横を、ダツが掠めて頬を切り裂いた。
「…反吐が出る光景だねぇ…海の男とやらはその死後も、海に囚われる覚悟をもつべきだとは思わないかい、結貴よ」
その覚悟を年端もいかない子供にお仕着せるとはねぇ…と呟いた奉の表情は、煙色の眼鏡に遮られて見えない。奉は羽織の袂に手を入れると、何か干物のようなものを取り出した。
「八人目が欲しくば、くれてやろう」
奉が干物を放り込む。それはひらりと宙を舞って海に落ちると、とぷりと沈んだ。…そして、すぐに浮かび上がってきた。


―――人の顔をした魚が、ゆらりと泳ぎ出した。


「…お前、あれ」
「じゅごん…だねぇ。干しておいた」
「そこから再生すんの!?あれ何、干しシイ
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