七人同行
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声があがり始めた。予想外の釣果を得たのは俺だけではなかったらしい。奉の竿にも大きな当たりがあったらしく、竿がしなっていた。…何だこれ、すごいテンション上がってきたぞ。
「………早かったねぇ………」
リールを巻く奉の表情が見えない。こいつが何の為にこの船に乗ったのか、薄々分かっていたはずなのに。
俺は。
仕掛けを一本釣りに戻すことしか頭になかった。
「…あれ、動かない」
船頭の声がした。
皆がクーラーボックスにギッシリ詰まった釣果に満足しきって珈琲を啜り始めた頃。
いつしか、船のエンジン音が途絶えていることに気が付いた。最初は入れ食いスポットに入ったから船頭が投錨してエンジンを切ったのかと思っていた。
「参ったなぁ…バラストに網でも巻き込んだかな」
ぶつぶつ呟きながら海面を覗き込んだ船頭が、ヒッと短く悲鳴を上げた。
「なっ……」
つられて海面を覗き込んだ皆が、息を呑んだ。
海面を覆い尽くす魚の群れ。それはまるで船の進路を阻むようにこの船に押し寄せていた。まるで銀の波だ。無表情な目玉を全て船に振り向けて、大きい魚も小さい魚も、頭を揃えて船を取り囲んでいた。…ぞくり、と背中を悪寒が走り抜ける。俺は愚かにも、この期に及んで今日が10月24日であった事を思い出した。
「奉っ…」
奉はよく焼けたサバを箸でほぐし、口に運びながら呟いた。
「あまり見るな。…『あれ』が、来る」
『あれ』と呟いた瞬間、空気がずしりと重くなった。ヘドロに押し包まれたような不快感に、俺は思わず顔をしかめた。海の果てまで続くかのような魚の群れの上を、七つの人影が歩いているのが見えた。他の釣り人達にも見えているらしく、方々で悲鳴が上がる。綿貫も何かを叫びながら誰かのクーラーボックスを蹴り倒していた。
「なんだ…あれ」
「七人ミサキ…かねぇ」
海で溺れ死んだ者達が七人、寄って成る妖だという。それは現世を彷徨い行きあう者を『八人目』としてその列に引き込む。一人引き込めば、一人成仏できる。…それを永遠に繰り返すから、彼らは永遠に七人で彷徨い続けるのだ。…奉は事もなげに呟いた。
「くくく…業の深い妖だねぇ…」
「じゃ、あいつは」
「10月24日の儀式。あれは、彷徨う七人ミサキに『八人目』を供する儀式よ。海で子を喪った親、夫を喪った妻が、少しでも早く彼らを『成仏』させんがために…目を血走らせて近隣で攫ってきた幼い子や、瀕死の病人を海に放り込むんだよ。ほれ、みてみろ。そこの断崖」
すっと奉が指さす方向には、暗雲の立ち込める昏い崖。
「24日になると、遺族たちの怒号や放り込まれる子供達の泣き叫ぶ声が満ちたものだ。その声に導かれるように崖を取り囲む、七人ミサキの群れ…ぞっとするような眺めだったねぇ…」
「お前…それをただ見ていたのか」
「全ては、人
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