暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
七人同行
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になるのなら貸そうか、『ものすごく釣れる竿』」
奉がにやりと笑って、いつか『じゅごん』を釣った竿を差し出してきた。…元々は、俺の竿だが。
「―――今日つかうのは、あまりお勧めしないけれどねぇ」
俺は黙って背を向けると、船頭に声を掛けた。


「すみません、さびきの仕掛け、貸してください」


俺と奉は並んで釣り糸を垂れている。俺たちを朝霧にも似た七輪の煙が巻く。…綿貫は既に、俺たちを少し遠巻きにしていた。
―――俺は、何をしているのだ。
「…さびきとか、船出してまでやることかねぇ」
面白いか?それ…と半ばあきれたような顔で奉が呟いた。
「…うるっせぇな…この七輪の煙の中であたるかどうか分からない一本釣りに徹することができるお前の方がどっかおかしいだろ。本来お前の役目だからな、これ」
さびきとは、撒き餌の入った小さい籠を釣り糸の先端につけ、小さい魚を寄せて複数の釣り針で揚げる、ハナから小者狙いの仕掛けである。とりあえず何かが掛かる可能性は、一本釣りよりは高い。
「釣れるといいねぇ、ちっちゃいアジとか」
くくく…と笑いながら、奴は慣れた様子で文庫本を片手で繰った。


―――早速、浮きがとぷりと沈んだ。


そろりそろりとリールを巻くと、今日初めての当たりが揚がってきた。
「……よし」
大きく息が漏れる。うまいこと小アジの群れを引っ掛けたようだ。甲板の隅の方から『ちっさ』とか聞こえるが、何とでも云うがいい。これで最悪の事態からは逃れたのだ。釣り針から外してバケツに放り込んでおいて暫くした頃、背後からじゅわぁあ…と油の音がし始めた。
―――小さいから丸ごと天ぷらにされた…!!
くっそう、七輪で焼く価値ナシか…!軽くショックを受けるやら、釣り船に油とか持ち込んで大丈夫かよと心配になるやらだ。
「密閉式のやつだ、気にするな」
俺の懸念を読んだのか、奉が本から目を離さずに呟く。いや気にするよ!?小さいと揚げられるって重圧がさびき釣りの俺にガッツリのしかかってるよ!?と言いかけた瞬間、二投めの仕掛けが、再びとぷりと海面に沈んだ。…あれ、思ったより当たりが早いな…。俺は、仕掛けについてきた奴を確認した。
「……うそ」


―――何故それが、さびきに掛かる!?


「おぉ、すげぇな青島!」
早くも飽きたのか、綿貫が仕掛けをほったらかしにして俺の背後にぶらりと寄って来た。
「これ何?サバとか…イサキ?ブリ?さびきでよく引っ掛けたなぁ」
「お、おぅ…」
いやに大ぶりな釣果を甲板に落とすと、きじとらさんが目を輝かせて駆け寄って来た。仕掛けから魚を外すのは、任せてもよさそうだ。…やがて、七輪がもうもうと煙を上げ始めた。
「うっわ、すげぇ!」
「引いてる、引いてるぞ!」
時をおかず、甲板のあちこちから歓
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