巻ノ七十五 秀吉の死その十
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「何かとね」
「己を曲げず引っ込めぬからな」
「だからね」
「これからが心配じゃ」
「そうだね」
「そしてな」
「あの人だね」
北政所は今度は複雑な顔になって夫に応えた。
「何といっても」
「極めて強情でな」
「気も強くてね」
「そして全くの世間知らずじゃ」
「そして言い出したら聞かないから」
「困ったことじゃ」
「どうしたものかね」
難しい顔でだ、北政所も言う。
「本当に」
「御主の言うことも聞かぬしな」
「それどころかね」
「対抗心を燃やしてじゃな」
「どうにもならないよ」
「そうであろうな」
「あたしは別に嫌いでもないし憎くもないけれど」
しかしというのだ。
「あの人は違うね」
「そこがな」
「困ったところだね」
「うむ、拾を必死に護るであろうが」
「何もわかっていなくて知らなくてはね」
「そしてその二つに気付かぬではな」
「どうしようもないね」
夫にもこう言う。
「やっぱり」
「ここは桂松に頼みたいが」
「あの娘もね」
「だから竹千代殿に言ったのじゃ」
話がここに戻った。
「あの様にな」
「内府殿だったら約束を守るよ」
「律儀殿じゃからな」
「天下のね」68
「だから大丈夫じゃが」
「それをあの人はわかるかね」
「難しいのう」
秀吉はわかっていた、このことも。
「非常にな」
「あたしにどうにか出来れば」
「しくじった、何とかしておくべきだった」
秀吉は後悔も口にした。
「動けるうちにな」
「御前さんあの人には甘かったからね」
「ついついな」
「子供を産んでくれたしね」
「そしてな」
「何よりもだね」
「市様に瓜二つじゃ」
秀吉は信長の妹であり天下一の美女と言われたこの姫の名前を出した。
「当然と言えば当然じゃが」
「成長するにつれてそうなったね」
「そうじゃ、見れば見る程な」
「だからだね」
「ついつい甘くしてじゃ」
「何とか出来なかったね」
「佐吉とあ奴はな」
この二人はというのだ。
「何も出来なかったわ」
「二人が誤らないといいね」
「そうじゃな、しかし拾は託した」
「それならだね」
「後は任せる」
そうするしかないからだ、秀吉は言った。そしてこの話をしてから数日後だった。秀吉は遂に世を去った。
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