本能寺 かく炎上せり
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裸の巨人が、ぬうと俺の前に立ちはだかっていた。
「………鉄?」
巨人の素材に言及している場合じゃないんだが、思わずそんな言葉が零れた。
「オグン、炎ト戦イノ神。ソシテ鉄ノ神デモアルヨ」
「ていうか鉄だなこれ!?燃え盛る本能寺に何で鉄を呼んだ!?」
ま、まさかこの鉄の巨人を明智にけしかけて起死回生の…逆転劇!?
「コレニ乗ッテ逃ゲルヨ」
「消極的か!!」
俺は思わず怒鳴っていた。先ほどまで死に向かっていた体中の細胞が、ふつふつと生き返る。
「こんな物々しい…というか戦くらいにしか役に立たなそうな生き物呼んでおいて逃げる!?何を勿体ないことを云う、こいつで明智奇襲しようぜ!!」
勢い込む俺を、弥助は未開の蛮人でも見るような目で見降ろし、はん、と短いため息をついた。
「戦イニ駆リ出スニハ、生贄ガ足リナイノヨ」
「生贄だと!?ならば捧げよう…この寺を取り囲む連中全てを対価とする!!」
「アーネ…先払イヨ、基本的ニ」
「シビアだな!!…まぁいい、今の俺に払えるものはないのか」
「コノ寺ニ、猿ガ千匹イレバネェ…」
「厭だよそんな猿まみれの寺に泊まるの!!…ならば俺の身を捧げよう。この第六天魔王のな!!」
「信長サマガ千匹イレバネェ…」
「等価か!!俺の命、猿と等価か!!」
くっそう、オグンの価値観が掴めん!!
「ソロソロ静カニネ…オグンノ腹ガ開クヨ」
「お前に云われると必要以上に腹立つな……んん!!??」
巨人の腹部が、突然バカリと大雑把に裂けた。分厚い鉄の腹の中身は、鎧のようながらんどう。治まらぬ炎に炙られた鉄の躰は、どう考えても鉄瓶のように熱い。ていうか既に熱気が陽炎となって周囲の空間を歪ませている。
「サ、入ルヨ信長サマ」
「ちょ…いやいやいやこれ絶対入っちゃ駄目なやつだろ!俺こういう拷問器具見たことあるもの、外国の文献で!!」
死は覚悟していたがそういう死に方は絶対NOだ!猛抵抗する俺を、弥助は有無を云わさず抱え上げて巨人の腹に放り込んだ。
本能寺に於いての俺の記憶は、そこまでで途切れる。
―――あれから何年が過ぎただろうか。
釜の中にでも放り込まれたような熱気で気を喪った俺が再び目を覚ましたとき、俺は黒い人間の群れに囲まれていた。奴らは目覚めて戸惑う俺を何やら高い場所に据えられた椅子らしきものに座らせ、伏して祀り始めたのだ。
オグンの腹から出て来た俺は、炎の神・オグンの化身として黒い人間たちの崇拝対象となった。
なんだこの変な余生…暑いし、ジメジメしているし、食事は変な獣の肉とか異様な果物ばかりだし、最悪だ…とか思っていたが、炎と戦の神という立ち位置は『余生』とはほど遠く、周辺部族との戦争にしょっちゅう助言を求められた。森の蛮族の原始
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