本能寺 かく炎上せり
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されはしない。だから生き延びたのち伝えるのだ、信長は、自ら火を放った、と」
着物の胸元を割り、小刀を水平に構えた。…決まった、これこそが我が人生の終焉。ここに歯を食いしばり泣き崩れる蘭丸がいれば完璧だがそこはそれ、後世の連中が適当に創作することだろう。弥助はまぁ…豆だし。
もう一度、明智の陣を見下ろしてみる。ここまで声は届かないが、陣の中程に何か一生懸命叫んでいる男が居る。
「…相変わらず、クソ面白くもない陣形よな」
敵ながら、思わず舌打ちが出る。こ奴はいつもそうだった。真面目で、完璧で、水も漏らさぬ優等生の陣形。俺は何故か、それがどうにも気に食わなかった。内政をきちんと整えられる智将が必要であったから、奴を優遇はした。だが…
俺が本心から好んだのは、猿のような小狡く、賢しく、面白い男。それに蘭丸のような『崇拝者』だった。
だから俺は周りを『変わり種』と『崇拝者』で満たした。その方が楽しいと思ったのだ。そのせいだろうか…
「…なんっで最期の瞬間に…よりによって一番のイロモノ系が傍に…」
口に出してみたら何か無性に悲しみが沸き上がり、がっくりと肩を落とした。弥助が憐れむように、俺の肩にぽんと掌を乗せる。…くそ、狭い四畳半にこいつの巨躯は圧迫感が半端ない。俺は三度、窓の外に視線を移した。
「くくく…大勢の中であやつを探し出すコツを、知っているか」
弥助が首をすくめた。
「簡単なことよ。…金柑頭の禿げを探したらよいのだ」
「ハゲ多過ギテ、ワカンナイヨ」
「ぐぬ」
「何故、皆好キコノンデ禿ゲ散ラカスカネー、不思議ノ国、日本」
「禿げじゃねぇよ、髷だ!月代の辺りをよく見ろ、青いだろう!?奴は毛根残ってないから月代が金柑のような橙色なんだよ!!いいか、俺とあの禿げと一緒にするな!!」
「ワザワザ皆シテ人工的ニ禿ゲテルノニ、何故ナチュラルボーン禿ゲヲ虐メルノヤラ…」
「ナチュラルボーン禿げ云うな!!明智泣くぞ!!」
言い出しっぺは俺だが、なんか明智が不憫になっていた…明智、お前頑張ってたよな…。
こうして敵味方に分かれる宿命となったわけだが、俺は決して明智が嫌いではなかった。事実、その才を信用して重用していたつもりだ。…何故、俺たちはこうなってしまったのか。
「運命……か」
口をついて出たのはそんな陳腐な言葉。
俺は既に、この窮地をどう脱するかよりも、この…恐らく歴史に残るであろう反逆劇を、どう華やかに締め括るかに思考を巡らせていた。天下を統べた支配者たる俺は、後世の笑いものになるわけにはいかない。…そう、俺は。
「見分ケツカナイネー、ドノ禿ゲヨー」
―――これだよ。こいつが横で死んでるというのが、歴史的な『俺の最期』に一番面白げな影を落とすに違いないのだ。
「…お前、今すぐ
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