プロローグ 小さな少女と無表情な男
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彼は小さな檻の中で静かに寝息を立て寝ていた。体を鎖の様な物で巻かれ、手足には枷。目まで見えない様に布が付けられている。普通の人間ならばこのような状況下で寝るなど無理だ、だが彼は夢を見ている。
彼は檻と似た場所で寝ていた、目を開けると目の前には白衣を身に纏った男女が居る。男は機械をいじりながらニヤニヤと笑い、女は心配そうに彼を見ていた。
『始めるぞ』
そう男が言うと彼の全身に電流が走る、寝惚けた彼の意識はそれで強引に起こされた。だが痛みは無く、少しびりびりと痺れがあるだけ。
『あ、貴方。そろそろやめないとこの子が‥‥』
女はそう言って機械を止めようとするが男がそれを阻止する。
『もう少し電圧を上げる、それでも無事ならこの実験は終わりだ』
機械をいじる手は止まらない、身体に走る電流が強さを増す、だが彼は叫ぶわけでも泣くわけでも、はたまた何か言う訳でもなく、黙って二人を見ていた。
『素晴らしい、やはり俺達の息子だ、あぁ完璧だ』
男は彼を見て喜び、女は悲しそうに見つめていた。彼はそれを見て、只々思う。
何故、生きているのか‥‥と。
夢から覚めた。
視界は暗いが音で解る。かすかに聞こえる少女の声が彼を起こした。
「ねぇ。ねぇってば!」
「何?」
返事を返すと少女は此処は何処かと問い掛けて来た。
「知らない」
とだけ答えてもう一度眠ろうとしたら鉄格子を揺らして音を立て始めた。
「知らないって! どういう事よ!」
「知らないものは知らない、気付いた時には此処にいた、大人達が言うに自分は大人たちの仲間を三十人位やっつけたって聞いた、だからこんな格好してる」
時々見る夢は此処に来るまでの記憶、思い出そうとしても思い出せないが夢の中でははっきりと解る。
だから夢を見ないと自分が何者かも思い出せない。何故ここに居るのか、何故、大人たちを倒すほどの力があるのか、何故自分は痛みを感じなかったのか。
「と言うわけだから君の質問には答えられない、それじゃあお休み」
彼女が何か言っていたがそれを気にせずまた眠りについた。
夢は燃え盛る部屋を彼に見せた。
目の前には血を流して倒れ込んでいる女、その後ろでけらけらと笑う男。
『君がいけないんだ、君が目の前に飛び込んで来たからだ! 僕は悪くないぞ! 悪くない、悪くない悪くない悪くない‥‥』
男は炎の向こうへと消えて行く、彼は倒れた女を抱え、見詰めた。手に着く血はまだ温かく、彼女の身体から聞こえる音は徐々に小さくなっていく。
『ケホッ‥‥大丈夫、大丈夫だから』
女は優しく彼の頬を撫でる。
『ごめんね、昔からドジで駄目だったから』
女の身体がどんどん冷たくなっていく。
『ごめんね、貴方には‥‥もっと教えたい事あっ
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