第七話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その1)
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間が出たでしょう。ましてルードヴィヒ殿下の場合、母親である皇后陛下は既に亡くなっています。ベーネミュンデ侯爵夫人が皇后になれば一気にそういう動きが出ると判断した、だから……」
「生まれてきた赤子を殺した……」
応接室に沈黙が落ちた。ややあって大公が沈黙を払うかのように首を一つ振ると話し始めた。
「あの事件の後、わしとリッテンハイム侯は密かに会って話をした。わしが侯に卿がやったのかと聞くと侯は自分ではないと言った。そしてリッテンハイム侯はわしに公がやったのかと聞いてきた。わしもやっていないと言った」
「……」
大公の言葉にリッテンハイム侯がゆっくりと頷いた。昔を思い出しているのかもしれない。
「分かっていた。お互い相手がそのような事をする事など有り得ぬ事は分かっていたのだ。ただ念のために確認しただけだった」
「お互い天を仰いで溜息を漏らしたな、大公」
リッテンハイム侯の言葉に大公が頷いた。
「その罪をわしとリッテンハイム侯に擦り付けた。愚かな話だ、あの事で皆がルードヴィヒ殿下を見放した」
「それは何故です」
俺の問いかけに大公とリッテンハイム侯は哀れむように俺を見た。
「皆、犯人はルードヴィヒ殿下だと直ぐ分かったはずだ。その殿下がわしとリッテンハイム侯に罪を擦り付けた以上、もはや殿下は我等の協力は当てには出来ぬ。義理の兄弟としてもっとも信頼すべき存在である我等を敵に回したのだ。そのような皇太子に誰が付いて行く?」
「……」
そういうことか、この事件で貴族達は忠誠心を向ける存在を失った。だから彼らはその忠誠をむける存在をブラウンシュバイク大公、リッテンハイム侯に求めた。ルードヴィヒの死が両家の勢力拡大のきっかけになったのではない。それ以前からブラウンシュバイク、リッテンハイム両家の勢威は強大化していたのだ。皇太子の死はそれに拍車をかけたに過ぎない……。
皇帝は知っていたのだろうか? いや知っていただろう、皇帝は凡庸ではないのだ。知ったからこそ帝国が内部分裂すると考えた。子を殺された事が帝国崩壊の引き金を引く事になる、皇帝はそう考えたのだ……。そして帝国崩壊の流れは止められないと……。だから俺を引き立てた……、帝国を再生させるために。
憎んでいたはずだった、軽蔑していたはずだった。だが今はどうしようもなく皇帝が哀れだと思える、無念だったろうと思える。父親として、皇帝としてフリードリヒ四世は息子に裏切られたのだ。俺は一体皇帝に何を見てきたのだろう。そして姉上は皇帝の苦しみを傍で見続けてきたのだろうか……。会いたい、無性に姉上に会いたいと思った。皇帝の事を話すために……。
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