第一章
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父殺し
秦王政についてだ、国内で多くの者が密かに囁いていた。
「何かな」
「うむ、秦の王家のお顔とはな」
「違うのではないか」
「目が青いしな」
「実は髪が赤いという」
「これはこの辺りのものではない」
「西域の者の目や髪の毛の色ではないのか」
こうした疑念が囁かれていた。
「あの方は王家の血を引いておられるのか」
「先王が趙におられた時のお子だが」
「宰相の呂不韋殿のところにおられた芸妓がだ」
「王の后となられたが」
今の王太后である、言うまでもなく秦王の父だ。
「王太后様は呂不韋殿の屋敷におられた」
「ではだ」
「あの方は実は」
「まさかと思うが」
「呂不韋殿の」
こうしたことが囁かれていた、流石にこの話は表立っては言われなかった。話題が話題だけに王の耳には入らない様にしていた。
しかしだ、秦王は愚鈍ではなかった。むしろだ。
相当に聡明だった、書を常に読むだけでなく非常に勘が鋭く耳もよかった。それでだ。
玉座からだ、厳しい表情で言った。切れ長の恐ろしい目は青く髪の毛は染めて黒になっているが面長で鼻は鷲の様に大きい。彫りのある感じの顔で胸は鷹の様に突き出ている。
その王がだ、側近達に言うのだった。
「近頃の噂は知っているな」
「国内のですか」
「その噂ですか」
「そうだ、余の噂だ」
まさにそれだというのだ。
「余が王家の者でないというな」
「それはあくまで噂です」
「民の口さがない言葉です」
「どうかお気になさらずに」
「忘れられる様」
「わかっている、しかしだ」
王はその青い目をさら鋭くさせた、冷たい光がそこにはあった。
「このことを言う者はだ」
「はい、これからは」
「処罰する」
「そうされますか」
「そうだ、民達に睨みを効かせよ」
このことを言うことは忘れなかった。
「下らぬことを言うよりは働けとな」
「まず身体を動かせ」
「そういうことですか」
「愚かな噂をするよりも」
「働けと」
「そうだ、下らぬ噂だ」
王もこう言いはした、だが。
今はこの場にいない呂不韋の顔と自分の顔を同時に思い出して言うのだった。
「下らぬ、な」
眉は顰められていた、そうしてだ。
王は法家を重用し徹底した法治をこれまでの王以上に進めまた軍も強くしていった。それは合理的というよりも冷徹であった。
その中でだ、王の耳にある話が入った。
「長信候の??がか」
「はい、実はです」
ある者が王に密告していた。
「宦官ではなく」
「髭を抜いただけの男か」
「ごく普通の」
「そして母上のだな」
「密かな情夫となっているとか」
「子はいるのか」
「二人程」
その者は自室で書を読んでいて己に
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