第52話
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る。
事実、陽軍が動き出した瞬間、魏軍が慌しくなった。悲鳴のような声は民だろう。
慌て逃げる速度が増したものの、少しして動きが鈍くなった。
恐怖に駆られた民衆が足並みを乱したのだ。魏軍は懸命に落ち着かせようと奮闘している。
「……」
袁紹の額に冷や汗が浮かぶ。
このまま交戦すれば民衆に多くの被害が出る。余計な殺生は避けたいのだ。
もしも魏軍がこのまま民と離れず退いていった場合、袁紹は追撃を中断したかもしれない。
しかし――
「魏軍が動きました!」
彼の知る曹孟徳が、民を盾に逃げ出すはずもない!
民衆を誘導していた隊列から続々と魏軍が出てくる。彼等はそのまま隊を作り、騎馬隊を前に並べて横陣を敷いた。その後ろに歩兵が続く、迎撃の構えだ。
――これを待っていた!
自軍の十倍近い相手を前に、民を守るように布陣する。通常なら有り得ない光景だ。
これができるのは大陸中を探しても曹操と、劉備、孫策ぐらいだろう。
個人の問題だけではない。あの死地に軍を従わせる事が難しいのだ。
「大炎に伝令! 敵陣中央で華を咲かせよ!」
「ハッ!」
最も、相手が天晴れな行動にでたとして手加減をする必要は無い。
むしろ袁紹は容赦なく、攻めを苛烈化させるため大炎を先行させる。
以前に実戦投入された戦術“大炎開花”を使うためだ。
今回は恋や華雄を交えたフルメンバーの大炎。とんでもない戦果を挙げるだろう。
そして、大炎開花を受けた魏軍に猪々子、斗詩の主攻を交えた陽軍本隊をぶつける。
中央を大炎に荒らされ、陣がめちゃくちゃにされた所を攻撃されるのだ。
泣きっ面にハチどころの騒ぎではない。上手くいけば此処で魏と決着をつけられるはずだ。
「袁紹殿からの出撃命令ですぅ! ネネ達の出番ですよ!」
「やっとか、待ちくびれたぞ」
「……」
知らせを受けた大炎が速度をを上げる。目指すは敵軍中央、曹操が居る本隊はその後列だ。
「ネネ達の役目はかく乱です、欲をかかず役目を全うするです」
「わかっているさ、だが……別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「……」
「……」
『……』
「皆、どうしたのだ」
「あ、いえ」
何か言いたげな彼らを一瞥し、華雄は騎突の準備に入る。
中心が前方に張り出し両翼が後退した形、魚燐の陣だ。
突破力を上げるため先頭に恋と華雄の両名が、指示を行き渡らせるため中央に音々音が居る。
これが大炎本来の騎突の形、魏軍はその破壊力を活目する――はずだった。
「……?」
最初に気がついたのは恋だ。
魏軍の騎馬隊が陣形を変えよう
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