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夏のお留守番
第一章

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                 夏のお留守番
 木戸沙織はその朝両親に言われた。
「いいか、今日はな」
「お父さんとお母さん急用が出来たのよ」
「急用って?」 
 両親にいきなり言われてだ、沙織は朝御飯のトーストを食べる手を止めて聞き返した。トーストには苺のジャムが塗られている。
「どうしたの?」
「実はお父さんの会社の人が事故に遭ってな」
「二人でお見舞いに行くことになったの」
「六時には帰る」
「その時までお留守番お願いね」
「ああ、そういえば今日日曜ね」
 沙織はここでこのことを思い出した、見ればおっとりとした感じの黒目が多い垂れ目で眉は目に添う形で垂れている。黒髪をロングにしていて背はそれなりだ。
「夏休みだから忘れてたけど」
「そうだ、それで二人でお見舞いに行くんだ」
「そうなったのよ」
「お兄ちゃんもいるのに」
「今日は練習試合なんだよ」
 兄の茂はすぐにこう言ってきた。スポーツ刈りの小柄な少年だ。
「部活のな」
「中学の野球部の?」
「だから今日はいないんだよ」
「それじゃあ今日は私一人?」
「いや、女の子一人は危ないからな」 
 ここでだ、父はすぐに言ってきた。
「一人助っ人を呼んだ」
「誰?」
「従兄弟の健ちゃんだ」
 沙織とは同じ歳の彼だというのだ。
「あの子に来てもらう」
「建ちゃんに?」
「ああ、あの子と二人でな」
「今日はお留守番ね」
「二人なら大丈夫だろう」
 留守番をしてもというのだ。
「それでいいな」
「ええ、ただ健ちゃんは」
 沙織は一緒に留守番をするという近所に住む親戚の彼のことを思って言った。
「何ていうか」
「やんちゃだっていうんだな」
「私よく悪戯されるから」
 会う度にというのだ。
「だからね」
「それはそうだけれどな」
「一人でいるよりはっていうのね」
「ずっと安心出来るからな」
「本当に女の子一人でのお留守番は危ないから」
 母も言ってきた。
「だからよ」
「健ちゃんに来てもらうのね」
「あの子もいいって言ったし」
 彼の方もそう言ってくれたというのだ。
「だからね」
「一緒になのね」
「今日はお留守番をしてね」
「俺は試合が終わったらすぐに帰るからな」 
 茂も言ってきた。
「それまで二人で頼むな」
「それじゃあ」
「いいか、セールスマンとか勧誘は断るんだ」
 父は沙織にこのことは強く言った。
「誰が来ても家の中には入れるな」
「知らない人はよね」
「そこは健ちゃんにも言ってるからな」
「危ないからよね」
「今日は別に業者さんも呼んでないし役所の人も来ないしな」
 役所は日曜だからだ、官公庁は多くは休日は動かない。
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