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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
64.■■■■
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なことをする。

 首の骨が折れたら、人間は死ぬ。死ななくとも折れた場所から下の躰は二度と動かなくなる。ユグーの腕力で折られたとしたら、それはほぼ斬首台(ギロチン)にかけられたに等しく、即死していなければおかしい。おかしいのに、この黒ずくめの男はまだ笑い続けていた。

「ハハハハハハハ……嗚呼、お前ユグーじゃないか。久しいな。死ね」

 男の漆黒に染まった両腕が上がり、ユグーの顔面に獣の爪のように突き出された。直後、バッゴオオオオオオンッッ!!と、空間を強かに打ち付ける衝撃が奔り、ユグーは後方に後ずさり、拘束から逃れた男が跳ねるように後方に引いた。
 ユグーにダメージらしいダメージは見受けられないが、音と衝撃からして万が一リージュたちが受けていたら首が文字通り吹き飛んだかもしれない。

 男の首はねじ曲がって体から下に垂れさがる体勢になり、やがてぐりぐりと左右に蠢いた末に首は元の位置に戻った。そこに来て、その場の全員が気付く。いや、オーネストとオッタルは辛うじてその気配を事前に察していたが、それを除いてもそれはまるで幻の中から現れた影のように突然現れた。

 ユグーに弾かれた男の後ろに、数十人に及ぶ黒ずくめの集団が音もなく整列していた。
 その全員の服が、よく見れば「あの時」――リージュが襲われたあの白ずくめの集団の色違いだった。その皮膚は黒く変色し、魔石は以前に見かけた男たちのそれより数倍に膨れ上がり、全員が狂気に浸り切った目でオーネストたちを見やる。

「我等は偉大なる代理人。真理を得たる賢者にして凶徒なり」
「その血は神の威光を穢す為にあり、その肉はいずれ原初へと戻る為にあり」
「死せよ、吾らの望む世界の為に。滅せよ、汝らが伏せた真実の為に」
「処刑されよ、臓物を撒き散らせ」
「処断されよ、醜く喚きながら」
「それこそが我らの望み。世界の希望、あるべき現実」
「礎となれ」
「礎となれ」
「『彼女』を、怖がらせるな」

 考えてみれば、それは当然の帰結だったのかもしれない。

 だって、黒竜との戦闘に生き残ったとしても、その冒険者たちは必ず疲弊するのだ。それは人間が人間であるがゆえに避けられず、そもそも黒竜を倒すという奇跡を貫くこと自体が稀なことなのだ。だから、だから――。

「こいつ等、ダンジョンに魂を売った異端者たちか……!!よりにもよってこんな時にッ!!」
「テロリスト連中が動く可能性は考えていたが、動きが早すぎる。『魔王』に何か施されたな?走狗共が」
「終わりだ、オーネスト・ライアー。負けて、死ね」
「ここまで来ておいて終われるかよ、糞が……っ!!」

 本当に運命という奴は悪辣な存在だと、オーネストは反吐のような悪態を吐き捨てた。
 
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