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もしも魂の在処が肉体にあるのだとすれば、死という事象を通り過ぎた肉体から離れた魂の在処はどこにあるのだろう。もしも輪廻転生がこの世の理ならば、魂とは親から与えられるのではなくもっと違う場所から溢れ出でて器に定着するのだろう。
ならば魂のいずる場所とは自分と他人の境界がなく、きっと安らかな場所であろう。
人が個となる以前、混沌という名の無我。
そこに溶けてゆく――きっとそれを望む者にとっては最も甘美な死。
記憶に過る街の人間たちと、結局あまり支えられなかった男の幻影が瞼の裏に浮かび、それも嘘だったのだと勝手に決めつけて消し去った。いや、聞こえぬふりをして押し込めた。確認するのが怖かったのかもしれない。どちらも認めないことで、本当にしてしまいたかった。
その時、さざ波以外の音がなかった空間に、ビシリ、と無機質な音が響いた。
「――んあ?……十字架に罅?」
音の発生源は、『贖罪十字』だった。
曰く、『この十字架は救済であり、諦観であり、死苦』。俺の死であり、諦めであり、救いであると言っていた。死とは俺に迫るものだ。諦めとは現世のことだろう。救いは、まぁ単純に考えれば死んで楽になるという事なのだろう。
同時に十字架は罪の象徴だという。あれは俺の罪なのだ。では、何故罪に罅が入る?
俺が罪から解放されるからか?死ぬことで?だいたい罪って何だ?
あの時は理解できた気がしたのに、今の俺には理解が及んでいない。
それは、現実の俺だと思ったあの悲惨な体に付随する認識では捉えられないと言う事なのか。
「あいつ、なんか色々言ってたよな……『こちら』に生きるならば『あちら』に引っ張られるな……だっけか。他にもなんかごちゃごちゃと……背負うことがオラリオにいる事ならば、投げ捨てるのは――いや、壊れるのはオラリオから出ていくこと?」
自分の夢から出ていくというのに、わざわざ十字架だの自分のもう一つの側面だのを持ち出すものだろうか。いや、そもそも『死望忌願』とは俺の何の願いを人格化した存在であるのか。
あちらとこちら、二つの世界。
オラリオに入る時と出る時の、対照的な世界。
分裂する俺の認識。……俺の意識?
仮に俺の意識だとして――『俺がなったのか』、それとも『させられたのか』?
「おい、質問いいか」
「なんだ」
「俺の意識が統合されようってときにも、お前は我関せずと一方的に喋ってたな」
もしかして俺は、とんでもない見落としをしているのではないだろうか。
そうだ、思えばあの世界は人間の妄想で作り出すには余りに矛盾が少なく、理想郷とは呼べない部分を内包しつつも生への希望に満ち溢れた世界だった。俺のいた世界とは、俺の在り方も含めて対極だった。
俺
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