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霊群の杜
以津真天
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子残して鬼籍に入る。俺は意を決した。島津が、え、供物?と呟きながら振り返る。奉への差し入れとして持ってきた塩大福を掲げると、岩戸の隙間から『やめろ、それだけは!』みたいな声が聞こえた気がしたが無視する。ほんとふざけんなこのギリッギリな状況下で。
「供物の見返りを、一つだけお願いできますか」
島津は相好を崩して頷いた。
「俺はその、岩戸の男と幼少の頃からの付き合いですが、南条という言葉は聞いた事がありません。本人すら、自分が南条であることを知らないかも」
「しかしこの男からは南条の気配が!」
「貴方が今、南条の『女』を美しいから、と見逃したように」
俺は慎重に言葉を選びながら、島津に向かい合った。
「家は滅び、血だけが、残ったのでは」
「―――うむぅ」
承服しかねる、と云いたげに、島津は俺を見下ろした。平原で会った島津はもっと小さかったが、この猪突猛進な性格には鴫崎のような体格の方が似合っている。
「彼を南条と断定するのは、少し待っていただきたい。そして貴方が使っているその…男は、俺の親友です。人を殺すと、罪人として捕まってしまう」
岩戸に隠れている引きこもりの為でなく、鴫崎の為に…と頼み込み、土下座寸前までいったあたりでようやく島津は渋々、取引に応じた。
「――― 千年を超える程、待ったのだ。いつまで、届かぬ怨嗟を抱えてあの地獄を彷徨い続けるのか、と」
歯の隙間から染み出すような低い声で島津は呟き、岩戸から離れた。
「いつまで、我らの骸は腐り地に還ることすら出来ず、昼も夜も知れぬ闇に打ち捨てられ続けるのか、と」
それは狂気のような時間であった。島津は、そう呟いてがくりとうなだれた。


「……あり?」


俺の前で茫然と佇んでいたのは、今起きたばかりのような顔をした鴫崎だった。
「……今、何時?」
急に時間を聞かれて一瞬戸惑ったが、スマホを取り出して画面をかざす。鴫崎の顔がみるみる強張っていった。
「じ、時間指定!!時間指定の荷物が!!俺2時間も何やってた!?てか何だこの塩大福!?」
「嫁さんに土産だ、持ってけ」
「お、おうサンキュ…また今度ゆっくりな!!」
ほんっとここに来るとロクな事がねぇよ、と叫びながら、鴫崎は慌ただしく石段を駆け下りていった。



「―――『供物』の預け先はアレで間違ってないか」
岩戸の陰で仏頂面をしている奉に声を掛けると、苛立たしげに足を踏み鳴らす音が聞こえた。
「間違っているに決まっているだろうが。…あれは俺への供物」
うっわ、超不機嫌だ。きじとらさんが、小さな風呂敷包みをそっと掲げた。
「奉様、お食事は用意してきましたから…」
「嫌だ。塩大福がいい」
子供か。
「参道の桔梗の陰に一つ置いてきたが…それこそ供物として」
「ならばそれを貰う」
「ちょ…
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