以津真天
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場ヶ火の草原で出会った血塗れの武者の事だ。俺の最後の質問は、奉の登場で遮られた。
この斬り合う光は、貴方と同じ者ですか。
その答えは奉から聞くことになったが。あの男は今後、月日を重ねて戦場ヶ火となるのだろう。
『さて、どうなるかね…供物を、受け取っているからねぇ』
あの後、妙に上機嫌な奉がそんなことを嘯いていた。供物が彼の運命を変える、そんなことはあるのだろうか。ポケットに残っていた飴一個が。
「もうすぐ階段終わりだよ!がんばれ!」
俺の沈黙が、荷物の重さに閉口していると取られていたらしい。俺は軽く苦笑すると荷物を抱え直した。それにしても重い。あいつはまたろくでもない本を招き入れたのではなかろうな。
「貴様ァ、南条の者ではないと申すかァ!!!」
このでかい声は…。鴫崎。
俺はとりあえず鳥居の脇に段ボールを置くと、本堂の裏に回り込んだ。案の定、今日も配達に来たらしき鴫崎が大音声で叫んでいる。乱暴極まりない配達はいつも通りだが、どうも目つきがおかしい。
「……分からん奴だ。俺は『玉群』だというのにっ……」
岩戸の隙間から、眼鏡の反射光が伺えた。鴫崎は僅かな隙間に掌を突っ込み、思い切り引っ張る。
「おのれ、たばかるかっ!貴様からは『南条』の匂いが漂ってくるわ!!」
「南条ではないと何度云えば」
「ならばお天道様の元で申し開きをするがよい!天岩戸に籠りおって不遜な奴め!!」
岩戸の裏側では奉が頑張っているようだ。…何だこの状況。鴫崎は様子がおかしいし、奉もなんか変だし。
「配達員さん!?」
止める間もなく、縁ちゃんが鴫崎に駆け寄る。奴はこちらにバッと顔を向け、吼えた。
「女子、そなたも南条の者だな!?」
「え…?私も玉群の…」
「ふん、そなたもたばかるか」
くわっと目を見開き、鴫崎はもう一度吼えた。
「だが美しいから良し!!!」
―――おい、どうした!?
お前そんな感じの奴だったか!?もう縁ちゃんドン引きだが!?
「そもそも女子に用はないのだ。南条は私が滅ぼすが、そなたはいい家に嫁に行き、子供と毬でもついて暮らすがよい」
毬て、今どき毬て……。
「それより貴様だ、洞の中の男子!!貴様は南条の者だろうが!!」
「……南条はとっっっくの昔に滅びた、と何度云えばよいのかねぇ、俺は」
心底うんざりしている雰囲気が、その声色に籠っている。おそらくこのやり取りは、少なくとも1時間は続いているのだろう。そんなにも長時間、この巨漢を洞の外に締め出しっぱなしにするとは、奉め、なかなかやるじゃないか。
「かれこれ2時間」
本堂の陰から、きじとらさんがそっと顔を出した。少し厚手のワンピースに紺色のボレロを重ねている。あぁ、秋が深まるにつれ、俺の知っている女子は厚着にな
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