巻ノ七十四 最後の花見その十四
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「好きな者は徹底的に好きになるが」
「お嫌いならば」
「そちらも徹底的になる」
「だからですな」
「七将と治部殿のいざかいはわしも知っておる」
幸村は加藤清正だけ名を挙げたがだ、昌幸はそこから他の者達の名も挙げた。
「唐入りの途中からな」
「それが生じて」
「今ではな」
「厄介なことになっていますな」
「かつては間に大納言様が入られたが」
「その大納言様もおられず」
「止める者もおらず」
「いざかいは止まらぬ」
これもまた厄介なことだというのだ。
「そしてな」
「そのうえで、ですか」
「うむ、治部殿は内府殿にも向かわれる」
「随分と分が悪いですな」
「あれだけ己を曲げず清廉だとな」
「美徳ですが」
「美徳が常に世を正しくするものではない」
決してという言葉だった。
「それで世が収まれば世の中は何と楽なことか」
「美徳だけでそうなるなら」
「そうならぬから世は難しい」
そうだというのだ。
「治部殿は私もなく二心もないが」
「それがかえって七将の方々を敵に回していて」
「内府殿にもな」
「下手に向かわれ」
「かえって豊臣家を危うくしかねぬ」
「そうなりますか」
「豊臣家の天下を守りたいのなら」
若しだ、石田がこのことを思っているのならというのだ。このことについては誰も疑うところはない。
「自重が必要じゃ」
「そのうえで」
「うむ、お拾様の傍におられてな」
「お護りすべきですか」
「刑部殿もおられるが」
「あの方は」
「業病じゃからな」
それは重くなり目が見えなくなってきているとも言われている。
「あの御仁が軸となるからな」
「今度は」
「だから余計にじゃ」
「治部殿の自重が必要ですか」
「徳川殿に正面から向かうよりも」
石田が必ずするそれよりもというのだ。
「自重し護りを固めるべきなのじゃ」
「しかし治部殿は」
「出来ぬ方、ではな」
「豊臣家はその分だけ危うくなりますか」
「治部殿は豊臣家に必要だからな」
しかし石田に自重はないというのだ、昌幸は先の先まで読んでいた。だがそれでもこう言うのだった。
「しかし戦はどうなるかわからぬ」
「勝敗は、ですな」
「だからどちらが天下人になってもじゃ」
「家が残る様にですか」
「策は考えてある、安心せよ」
「さすれば」
「そういうことでな、しかし戦にならぬなら」
それならというのだ。
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