32秋子の昔話
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が長くないと知り、身を引いて、もう娘の前に現れないと心に決めました」
ただ挿絵では、娘を連れて行った一団を見送り、自分を懲らしめようと残った者を、残らず撃破している青年の絵があった。
「やがて全てを話しを終えた青年は、狐達の頭を撫でながら、自分の命を与えた娘が元気になり、末永く幸せに暮らせるよう願うと、満足そうに微笑み、瞼を閉じました」
何か良い話でも聞いたように、ハンカチで目頭を押さえている秋子は、すっかり自分の話に入り込んでいた。
(これで終りなのか? その妖孤ってやっぱり叔父さんなのか?)
「いいえ、まだ続きがあるんですよ」
「へっ?」
やはり秋子にも祐一の心の声が聞こえるらしい。
「そこでっ!」
急に語り口調を変え、机を叩きながら熱っぽく語り始める秋子ちゃん。
「それを聞いた狐達は大いに悲しみ、怒りに身を震わせました。やがてその声は仲間達にも届き、愚かな人間達に罰を与えるため、話を聞いた二匹が代表して、丘を降りる事になりました」
(二匹……? 丘を降りる)
祐一の頭の中で、何かが危険を告げていた。普通なら狐視点で話が始まった時点で気付いても良い筈だが、高校生の祐一クンと言えど、そこまで頭が柔らかく無かったらしい。
「仲間の力を借り、人間の娘になった二匹は、眠った青年を連れて人間の街へと降り立ちました。過去に災厄の根源として恐れられた妖狐、それがニ体も」
(天野、お前が言った通りかも知れないな……)
オバン臭い物言いをする後輩を思い出し、物語が自分の出生の秘密に届きそうな予感に、ついウルウルしちゃう祐一クン。
「二匹は青年を暖かい場所で休ませ、燃え尽きようとする命を繋ぐため、年長の一匹が青年と血を交え、力を分け与えました」
「えっ?」
祐一は、そこから挿絵が、写真になっているのに気付いた。
「ええ、ここでカメラが手に入りましたから、この後は写真です」
その写真には、紛れも無く「若かりし頃の父親と母親」が写っていた。それも「初体験記念〜、も〜チョ〜ラブって感じぃ?」みたいに縋り付いてる母親が……
「…………」
美汐の言った通り、栞と香里に生きる力を授け、真琴が復活したのも祐一の力なのかも知れない。
「妖狐達は人間の世界に入り込み、神通力を使って罰を与え始めます。二匹の力は凄まじく、木の葉の数だけ紙幣が舞い、紙屑の数だけ債券があふれました。程なく人間の世界は大混乱となり、大きな会社がバタバタと倒れ、それは娘の父親にも及びました」
二十年程前の不況は、目の前の秋子ちゃんと、自分の母親が原因らしい。祐一クンの瞼からは、とめどなく涙が流れ落ちていた。
「妖狐からも、この災厄の原因が知らされ、禁忌を破った親子の話が知れ渡っていました。やがてその親子は人間達の手で狩り出され、妖狐を恐れ敬う者達
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