32秋子の昔話
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した。すると青年は、意識を無くそうとしていた娘の手を取り、こう言いました、「私は君に会う為に来た」と」
弱り切って布団に寝ている女性を抱き起こし、祐一にも非常に身に覚えがある「接触充電」で力を分け与えている青年。
「それを聞いた父親はまた笑い、青年に現金を差し出し「これを持って帰れ」と言いましたが、青年は紙幣を匂うと「そんな紙は薬にならない、薬草なら摘んで来た」と言い、懐から草を取り出して自分の口に放り込みました。紙幣も知らず、薬草を噛み千切って混ぜて行く粗野な行動を見て、一部の者は本当に妖孤が降りて来たのでは? と考えましたが、口移しで薬草を飲ませようとした青年を見て、慌てて引き離しました」
その様子を思い浮かべたらしく、秋子は笑顔を取り戻し、クスクスと笑い出して、止まらなくなった。
「ははっ、その場面、そんなに面白かったんですか」
何故秋子がその場面で笑うのか分からなかったので、探りを入れてみる祐一。
「ごめんなさい、これを話してくれた人と、書き写していた人は大丈夫だったんですけど、横で聞いていた人が怒り出して大変だったんですよ」
ちょっと聞いただけなのに、秋子は平然と「この本が書かれた場に自分が居合わせた」事を喋った。
(それも教えてくれるのか)
「じゃあ、続けますね」
「はい…」
「それから、青年が額や患部に手を当てているだけで、娘の状態は見る見る良くなり、ついに意識を取り戻すと、誰も青年を疑う者はいなくなりました。そして娘も何かを悟ったのでしょう、男を見て驚きもせず一言、「ありがとう」と言って微笑みました。家族からも感謝され、宴席が設けられましたが青年は断り、名前を問われても「知らない」と言い、どこから来たのかすら覚えていませんでした。それからも謝礼の現金も受け取らず、食事も採らず、ただ娘の手を取って、いつまでも患部をさすり「痛みは取れたか?」と問いかけ、夜は更けて行きました。やがて二人は引き合う磁石のように……」
破かれたノートを見て言葉に詰まり、次のページを開いた秋子。
「ここからは検閲が入って、ページごと破られてしまったので、少し話が飛びます」
「は?」
一体誰が何のために検閲したのか、理解できなかった祐一だが、あっけに取られている間に話は進んだ。
「やがて一週間が過ぎ、寝起きにも困らなくなる程回復した娘は、家族の目を盗み、何度も青年と愛し合っていました。しかし、それを知った父親が二人の関係を許すはずも無く… 強引に宿から連れ出し、二人は生木を裂くように引き離されました……」
とうとう涙声になり、言葉に詰まり出した秋子。
(これ、やっぱり秋子さんと、叔父さんの話なのか?)
「青年の力なら娘を連れ出す男達を追い散らす事もできましたが、グスッ、万が一にも娘を傷つけないよう、そして何より、自分の命
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