32秋子の昔話
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秋子か母親かは分からなかったが、祐一は悲しい話を思い出させたのを後悔した。
「無理しないで下さい、辛い話ならやめて下さい」
「いいえ、いいんです、そんなに悲しい話じゃありませんよ」
「はい」
普段見られない秋子の表情からも、その昔話が実話なのを悟り、黙って聞く事にする。
「その少し前、丘には大きな輿が登ってきて、古式に則って儀式を行い、狐達に食べ物を振る舞い、一人の娘を差し出しました。でも花嫁衣装で身を包んだ娘は、とても顔色が悪く、一人で立つ事すらままなりませんでした」
挿絵にある儀式を見て、美汐に聞いた話を思い出す。
(余命幾ばくも無い者は、妖狐と血を交え、命を永らえたと伝えられています)
「その儀式とは、医者に見放された娘のために、この土地の慣わしを聞いた家族が、昔の神事を真似た物だったのです」
(この字、何語だ…?)
さらにその本には、祐一が全く読めない文字が並んでいた。子供の名雪や祐一が盗み見ても理解できないよう、日本語ではない言語で書かれていた。
「やがて娘を気に入った数匹が名乗りを上げ、近寄って娘の匂いを覚えました。本来ならその夜、娘を残して縁者は去るしきたりでしたが、父親はそれを認めず、娘を宿に連れ帰りました。そこで儀式は破られ、狐達は食べ物を貰っただけで終わったはずでした、一匹の狐が仲間の力を借り、娘の後を追うまでは……」
(そんなすぐに?)
「真琴は大きくなって力を付けるまで、時間が掛かったようですけど、この狐は妖狐になる力を持っていたんでしょうね」
「はあ」
祐一の疑問に答えるよう、ノートから顔を上げて説明した秋子。どうやら佐祐理お姉ちゃんみたいに、何でも聞かれている気がした。
「その後、街に現れた青年の姿は、この時代では珍しい紋付き袴という服装でした。でもそれは儀式の時、丘に残された花婿の衣装だったのです」
(そう言やあ、真琴の服って)
「儀式が無かった時は、服を着たまま現れるみたいですね。 相手の理想の姿か、思い出の服装で」
「そうなんですか」
祐一の心の声に的確に答える秋子を見て次第に変な汗をかき始め、できるだけ余計な事を考えないように務めた。
「やがて娘の匂いを辿って宿に着いた青年は、娘に面会を求めましたが、どこの誰とも知れない男など、宿の者や父親の取り巻きに追い払われそうになりました。しかし青年は見えない力で男達を跳ね除け、奥へと進んで行きます」
挿絵には、どこかの栞さんのようなマッスルボディで、周囲の人間を蹴散らす妖狐の姿があった。
「そこで、儀式を取り仕切っていた男が、父親に告げました「これは本当に、丘から降りて来た妖狐かも知れない」と、父親は鼻で笑いましたが、すでに娘の容態は予断を許さない状態になっていたので、家族の願いもあり、藁にも縋る思いで娘に引き合わされま
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