第一章
[2]次話
夏休みが終わって
未森将はプロ野球選手だ、とはいっても日本プロ野球機構のチームには所属しておらずかといって独立リーグでもない。
八条リーグという八条グループが経営しているプロリーグのチームの選手だ、大阪バファローズの選手で守備位置は基本レフトで打順は五番だ。
この日の試合を終えて家に帰ってだ、妻の朋子に言った。
「もうあの娘は寝たよな」
「はい、もう遅いですから」
家の時計は十一時を回っている、妻はその時計を見てから夫に答えた。
「十時にはもう」
「相変わらず早寝だな」
「小学生ですから」
「そうだな、この仕事はな」
「どうしてもですよね」
「ああ、ナイターが多くてな」
この時間帯の試合がというのだ。
「どうしてもな」
「帰りが遅いですね」
「試合が終わってミーティングがあってな」
「お風呂に入って」
「それで帰るとな」
「もうこんな時間ですよね」
朋子はまた家の時計を見た、見れば彼女は小柄だが未森自身は一九〇を超えている逞しい身体である。
「いつも」
「十二時を回ることも多いしな」
「それは仕方ないですね」
「ああ、そうした仕事だ」
「そうですね、ただ今日の試合は」
「いいところで打てたな」
満足してだ、未森はテーブルの己の席に着いて笑顔で言った。
「よかった」
「そうですね」
「やっぱり打たないとな」
「バッターですから」
「ああ、ましてクリーンアップだとな」
五番バッター、それならというのだ。
「もうここぞって時に打たないと」
「駄目ですよね」
「それで打てたからな」
「よかったですね」
「それが決勝点にもなった」
「本当にいいこと尽くめですね」
「俺は足が遅くて守備は駄目だからな」
自覚はしている、しかし打球反応やグラブ捌きには定評があり強肩はチームから頼りにされている。しかしあまりにも足が遅いのでレフトにいるのだ。
「こうした時に打たないと」
「ダイアモンゴグラブでしょ」
「レフトでな」
外野の中で一番守備力が低い者が入るポジションとされている。
「だからな」
「あまり、ですか」
「自慢出来ないな」
「エラーが少なくても」
「レフトにいるとな」
どうしてもというのだ。
「それは言えないさ」
「守備での貢献は」
「守備固めはされないけれどな」
監督もコーチ達も彼はそこまで守備は悪いと思っていないのだ。
「けれどな」
「レフトだからですか」
「しかもクリーンアップだからな」
「打たないと駄目ですか」
「そして今日は打てた」
「だからですね」
「よかった」
満面の笑みでだ、未森は言った。
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