21最後の授業参観
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にも出禁、日常の生活品にも困り、外国にでも逃亡しなければならないので、祐一の頭の中では結婚行進曲が流れ、香里に引き摺られるように歩き、奴隷のような生活をする自分の姿が見えていた。
カッ、カッ、カッ
委員長が黒板に「命」の一文字を書き、教壇の前に立つ。
「それではこの時間は、次のホームルームと入れ替えになります、次回が授業になりますので、教科書を忘れないようにして下さい」
(委員長って、こんな時でも真面目なんだな)
もう教室で冷めているのは、祐一と舞の二人だけだった。名雪公認で祐一の隣に座っている女は、いつまでも泣き止まないし、女子の半分以上もグスグス泣いていた。
(香里、ふぁいとっ、だよ)
流れる涙を拭いながら、暖かい目で二人を見詰め、すっかり騙されちゃっている名雪ちゃん。
すでにディレクターらしき人物も、香里と両親を見ながら泣いて、その頭の中では自然に、いつものナレーションが浮かんでいた。
(最後の授業参観をするご両親、今日は病院を抜け出してしまった香さん(仮名)ですが、同級生の皆さんが引き止め、この時間は命について討論する事になりました)
「発言したい時は挙手して指名されてからにして下さい、それでは」
手を上げた生徒を指名する委員長、今日はカメラがあるので書記は必要無かったが、要点だけは黒板に書き込んで行く。
「私も体が弱くて、いつも仲間外れだったけど、美坂さんの話を聞いて考えが変わりました、これからはもっと強く生きて行きたいと思いますっ」
周囲の状況につられ、普段何も言わないような大人しい生徒まで、次々に発言する教室。
「私は、生まれて来る命の全部に意味があると思うんですっ、だからっ」
次第にエキサイトしていく生徒の発言。
「美坂さんは相沢君に会うために、相沢君と愛し合うために生まれて来たんだと、思います……」
もう涙で詰まって、言葉が続かなくなった女子生徒。そこでプロであるはずのカメラマンまで泣いてしまい、ビューワーのレンズを曇らせながら生徒の発言を追っていた。
(もしかしないでも、あの番組みたいになるんだろうな?)
祐一は予知能力を使わないでも、今後、香里の病室には、「全員で折った千羽鶴」が吊るされ、「クラス全員で合唱」したテープが、病室に響き渡るのが目に見えるようだった。
(それで「愛の奇跡」でも起こるのか、ソッチは民放用の脚本か?)
すでに番組ごとの傾向まで、把握して考えているであろう香里。
(このままでは絶対、香里に勝てない)
そこで1年の教室で、この事件を知らないまま過ごしている、先ほど追い返したばかりの「彼女」を思い、手を上げた祐一。
「あの、1年に香里の妹がいるんだ。みんな知ってる通り、あいつも永く生きられないって言われてたけど、もう退院して元気になった。だから
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