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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
第九十九話 夜の温室その二

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「実際にです」
「あっという間にですか」
「人は老います、ですが」
「子供の時にはですね」
「確かに時が過ぎるのが遅いです」
「それが不思議ですね」
 僕はしみじみとして言った。
「どうしてなんでしょうか」
「私もそれが不思議です」
「そうですよね」
「中学生まではです」
「時間が経つのは遅くて」
「中学生から徐々に速くなりますね」
「そうですね」
 そういえば本当にそうだった、中学生になってから段々と時間が経つのが速くなってだ。高校生の今は小学生の時の倍は速い。
「今はかなり速い感じです」
「一日もですね」
「そうなります、そして」
「歳を経るにつれて」
「さらに速くなり今は」
 畑中さんの頃の歳はというのだ。
「まさに瞬きする間です」
「一年も経ちますか」
「そうなりますので」
「じゃあ僕が畑中さんの年齢になれば」
「はい、その時はです」
「もうあっという間ですか」
「そのことはご了承下さい」
 こう僕にお話しながらだ、畑中さんはご自身の傍を飛ぶ蛍達を見ながらだった。そのうえでこうしたことを言ったのだった。
「この蛍もです」
「蛍もですか」
「今日こうして見ます」
「すると、ですね」
「明日も見る感じになります」  
 畑中さんの年齢になると、というのだ。
「まさに」
「そんな風ですか」
「秋も冬も同じです」
「じゃあ桜も」
「春に見た桜がです」
「また明日観る様な」
「そうしたものになります」
 僕に人生の深みを感じさせる、それでいて寂寥さも感じさせるその声で以て僕にも他の娘にも話してくれた。
「私の歳になりますと」
「ですか」
「しかしです」
「しかし?」
「時は確かに感じます」
 光陰の様な流れでもというのだ。
「一瞬のものに感じても」
「そうなんですね」
「そうです、そして」
「そして、ですか」
「この夏のことは一瞬でも経験していてです」
「次の夏にまた経験しても」
「やはり一瞬です」
 そう感じるというのだ。
「その中で多くのことがあったと思う様になります」
「不思議なものですね」
「その一瞬の中で素振りをします」
 畑中さんは剣道を嗜んでいる、そのうえでの言葉だ。
「それが積み重ねられていき」
「鍛錬にもなりますか」
「そうでもあります」
「ですか、面白いですね」
「そうですね」
「じゃあ畑中さんの素振りも」
 その剣道の鍛錬もだ。
「一瞬の日々の積み重ねですね」
「はい、無為に過ごされても一瞬ですが」
「充実してもですね」
「一瞬です」
 そうなるというのだ。
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