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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
第九十九話 夜の温室その一

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                 第九十九話  夜の温室
 僕達は夜の温室の中で蛍達を見ていた、その中で。 
 一人の四歳位の男の子がだ、その蛍達を見てご両親と思われる一緒にいる少し年配の男女の人達に言っていた。
「これが蛍なの」
「ああ、そうだ」
「奇麗でしょ」
「僕こんなの見たのはじめて」
 恍惚とさえしたものがあった言葉だった。
「こんな奇麗なの」
「都会じゃ見られないけれどな」
「世の中こうしたものもあるのよ」
 こう男の子に話していた。
「夏しか見られないけれどな」
「来年もここに来るからね」
「楽しみにしているんだぞ」
「また来年ね」
「来年なんだ」
 そう聞いてだ、男の子は残念そうな顔になってご両親に言った。
「そうなんだ」
「ずっと先か?」
「そう思ってる?」
「うん」
 がっかりした顔で言っていた、暗がりの中でその様子が見えた。
「ちょっとね」
「そうか、けれどそれでもな」
「蛍は夏だけしかいないから」
「それは仕方がないんだ」
「諦めてね」
「じゃあ来年になったら」
 聞き分けのいい子だった、歳の割には。ああした年齢の子は聞き分けがなくて駄々をこねたりすることが多いのにだ。
「またここにね」
「ああ、来るからな」
「楽しみにしているのよ」
「来年になったらね」
 男の子はまた言った、そして。
 その子を見ている僕にだ、畑中さんはこう言った。
「あの年齢では一年はです」
「はい、長いですよね」
「十年に感じる程に」
「そうなんですよね」
 思えば僕もそうだった、子供の時は。
「一ヶ月でもです」
「長いですね」
「相当に」
 もう気が遠くなる位にだ。
「それが一年になると」
「気が遠くなるまでにですね」
「長いです」
 実にというのだ。
「私もそう思います」
「あれは不思議ですよね」
 その幼い時の時間の感覚をだ、僕は振り返って畑中さんに話した。
「子供の頃の時間は滅茶苦茶長くて」
「しかしですね」
「はい、成長していくと」
「これが成人を越え三十四十となり」
「さらに年齢を重ねると、ですか」
「私位の年齢になりますと」 
 それこそというのだ。
「もう一年なぞです」
「あっという間ですか」
「誇張なし瞬きをする間です」
 まさにそれだけの期間だというのだ。
「本当に一瞬です」
「そうなるんですね」
「嘘ではありません」
「本当に時間が過ぎるのが早いんですね」
「光陰矢の如しといいますが」
「少年追いやすくですね」
「この言葉は事実です」
 確か儒学、論語の言葉だっただろうか。僕は論語は全文を読んだことはないけれど親父に読むのもいいと言われたことがある。
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