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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 39
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 当たり前だ。
 シャムロックと同じ、浅慮な過ちだとしても。
 ブルーローズにはブルーローズの理由があって、南方領の経済安定を願う義賊をしていた筈なのに……あんな言い方をされた後でイオーネを殺せば、ブルーローズが抱いていた理由も願いも想いも、全部否定することになる。

 ブルーローズは義賊なんかではなく。
 奪いたいから奪うだけの、浅ましい盗人集団だったと。
 誰かや何かを大切に想う気持ちはすべて絵空事なんだと、認めてしまう。

 だけど、ハウィスがためらい続けて、万が一バーデルの軍人にこの光景を見られてしまったら。

(時期を見誤れば、最悪私が真っ先に殺される。あの忠告の本当の意味は)

『アルスエルナに不利な状況を作ろうとするなら、王子が元凶を抹殺する』

 ミートリッテは人質だ。
 イオーネが、ハウィス達を(おとし)める為の。
 王子が、暗殺者を確実に断罪させる為の。
 バーデル軍に現場を見られなければ、王子率いる騎士達の手でどうとでも始末できる……人質。

「やめて……お願い、やめて! もう、ハウィスを追い詰めないで!」
「! 下がれ、ミートリッテ嬢! リアメルティ伯爵は君を護ろうと」
「そんなの解ってる! でも!」

 腕を払い駆け出そうとしたところで、再度ベルヘンス卿に捕まえられる。
 背後から両腕を押さえる形で抱き込まれ。
 身をよじって暴れても、足を後ろに蹴り上げても、振り解けない。

(イオーネは被害者だけど、商人をたくさん殺した罪人だ。アルスエルナを護ろうとする王子の判断は、きっと正しい。でも……、だからってこんな、ハウィスを殊更苦しめるやり方……っ)

「ハウィ」
「確かに、私達がやってきたこと自体は薄汚い略奪者と何ら変わりないわ。ウェミアさん達、ミートリッテに対しても、償う方法なんてありはしない」

 ミートリッテの声を(さえぎ)り。
 ハウィスの剣が、夜空で……
 うっとり微笑むイオーネの頭上で光り、瞬く。

「私も、ロクな死に方はしないでしょうね」

 小さく零れた呟きは。
 ミートリッテからは見えないハウィスの目に、落ちない涙を感じさせた。

「……いや……」

 ハウィスが壊れる。
 心が、壊されてしまう。

「嫌だ……!」

 柄を握るハウィスの手に力が籠る。

(こんなの嫌だ! 私はもう、誰も……誰も??)

 鋭利な凶器が、イオーネの頭に狙いを定め



「「やめてぇぇええええええええ──────っ??」」



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