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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 39
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う肩書きが、ミートリッテを血塗れにしてしまうから。
 「ハウィス……」
 「あは! それよ。貴女達の、絶望に支配されたその顔が見たかったの! 殺したくなかった? 殺させたくない? バカも休み休み言え!! 生物は等しく奪わなきゃ奪われるだけ! 殺さなきゃ殺されるだけだ! そんな当たり前の因果からも目を逸らした気持ち悪い夢想家共が、したり顔で生き死にを語るな! 虫酸が走るわ!」
 「……!」
 「認めなさいよ。貴女達は貴女達以外から物を奪い、過去と未来を奪い、命を奪って生きている。綺麗な言葉で一生懸命装飾しても、搾取と強奪こそが人間の本質。本来の在り方だ。譲り合い分かち合いで回るのは、何の役にも立たないちっぽけな優越感だけ。崇高な善意様を投げ渡された相手の迷惑顔も顧みず、助けてやった自分は他より満たされ優れてるんだと思いたいだけよ!」
 「違……っ」
 「今だってそう! 邪魔な私を殺して仔猫を手に入れる。地位を守る。他に何があるの? 国の安全? 領民の不安を払拭? 領民一人一人が侵領者共を殺して安心させてくれと、殿下の立場を守ってくれと懇願したのかしら? 違うわよねぇ? 貴女達はいつだって、誰の意見も求めちゃいないんだから!!」
 「私達は!」
 「御託はうんざり! ……もう良いわ。ほら、バーデル軍が到着する前に早く殺しなさいよ。私の手足共を斬り裂いたその剣で! 本能と欲望が赴くままに! でないと……貴女の大切な仔猫が「殿下に」殺されるわよ?」
 「「!?」」
 母子が同時に息を呑み、腕を組んで立つエルーラン王子へ顔を向けた。
 バーデル軍は、騎士の護衛付きで自国へ逃がされた子供の顔を知っている。現時点、暗殺者との戦場でミートリッテが死ぬのは不自然極まりない。アルスエルナの騎士は護衛も満足に務められないのかと、体面の悪さも目立ってしまう。それは王子も十分に理解してる筈だ。
 なのに何故、彼がミートリッテを殺すのか。
 答えを求めて様子を窺っても、王子は指一本動かさない。戸惑うハウィスの剣先を黙って見てるだけ。
 首を捻りつつイオーネへ視線を移し……
 (……! そうか! 暗殺者に誘導されて来たバーデルの軍人達は、村付近の国境警備隊とは担当地区……指揮系統が違う。暗殺者の目的地が国端だと判明した時点で鳥か早馬を飛ばし、軍人達が追い着くまでの間は現地の警備隊に周辺の監視強化を要請していたと考えるべきだ。多分、私が教会へ行った時は既に見張られていた。にも拘らず、イオーネは「国境間近の教会で」見付けた私を追跡し、隠されていた村の情報すら集めてみせた。バーデル軍は、イオーネの顔はおろか背格好も把握してないんだ。なら、バーデル軍の前でアルスエルナ勢と交戦するか、或いは有益な情報をバーデル軍に直接開示しない限り、イオーネが暗殺者だとは証明できない
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