Side Story
少女怪盗と仮面の神父 39
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白刃を閃かせた。
踏み出す先には、何故かアーレストに組み伏せられてるイオーネの姿。
「ハウィス??」
何を。
動けないでいる女性に、大嫌いな剣を掲げて。
ハウィスは何をしようとしてるのか。
「ミートリッテ嬢!」
嫌な予感。
胸がざわつく。
衝動的に立ち上がろうとしたミートリッテの肩を、正面に来て膝を折ったベルヘンス卿の両腕が押し留める。
それでも追いかけたがる娘に、ハウィスは上半身で振り返り目を細めた。
「お願いよ、ミートリッテ」
悲しみや怒り、諦めや切望。
様々な感情が複雑に入り乱れた難解な笑顔は。
すぐさま闇に溶けて消えた。
そして。
ハウィスの声色を著た冷酷無比な宣言が、ミートリッテの耳を貫く。
「……当代リアメルティ領主、ハウィス=アジュール=リアメルティの名において、隣国バーデルよりの侵領者、暗殺者イオーネを……断罪する」
断罪。
罪を裁くこと。
領主のハウィスが、密入国者のイオーネを。
元義賊が、元一般出の侍女を。
……加害者が、被害者を……裁く。
「遺したい言葉があるなら、聴こう」
眼前に切っ先を突きつけられたイオーネは、敵の喉を噛み千切ろうとする肉食獣にも似た険悪な顔でハウィスを睨み。
ふと、微笑んだ。
嬉しそうに。
楽しそうに。
肩を揺らしてクスクス笑う。
「良かったわねぇ、ハウィス? 殿下が爵位をくれたおかげで、今後は誰に脅かされる心配もなく、仔猫をずうーっと傍に置けるじゃない。ついでに、隠しておきたかった過去も消し去れて。嬉しいでしょ? 嬉しいわよね? 他人を踏み躙って手に入れた幸福は、この上もなく甘美でしょう?」
「…………嬉しい? 幸福?」
あははと高らかに笑うイオーネ。
ハウィスは
「どこに、あるの? そんなもの」
かつてなく低い声を。
ぴんと伸びた背筋を。
月光で輝く剣身を。
小刻みに震わせる。
「ミートリッテは……生きたいと、言ったのよ?」
明らかに誰の庇護も受けてない凄惨な姿で。
自分を見棄てた人間達に対する憎悪や嫌悪を並び立てることもなく。
後悔したくない、笑いたい、子供に戻りたいと言って、泣いたの。
「身も心も、深く傷付けられ、人間社会に捨てられて……それでも『人』を求めていたあの子にこんな、人殺しと変わらない汚い仕事を押しつけて! 逃げようがない、領主後継者の枠に縛りつけて! 現状のどこに、あの子の幸せがあるって言うのよ?? 私はっ! 私は、他人の傷を見て自分の心臓を止めてしまう優しい娘に、両手を赤く染めて万民に誇れとは言えないっ!」
決して! 言いたくなかった??
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